研究課題/領域番号 |
19K23324
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
内田 康弘 愛知学院大学, 教養部, 講師 (50848629)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 不登校・高校中退 / 全寮制高校 / NPO法人 / 学習支援・居場所支援 / 地域と学校との協働 / 通信制高校・サポート校 / ICTの活用 / 学校教育の情報化 |
研究実績の概要 |
採択2年目となる2020年度は、新型コロナウイルス感染症の全国的な感染拡大に伴い、当初の研究計画を実施することができず、いずれの調査も再延期・中止の判断を余儀なくされた。しかし、教育現場では、緊急事態宣言発出に伴う学校の一斉臨時休業等によって、子どもたちの学習機会の保障が社会的課題となり、それは不登校・高校中退経験を持つ児童生徒も例外ではなかった。 よって本年度は、本研究の当初の目的を逸脱しない範囲で、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大下(以下、「コロナ禍」と表記)における不登校・高校中退経験者への学習支援の実態」という観点から、コロナ禍における全寮制高校Yの教育実践と、NPO法人Bの実施する学習支援に関する聞き取り調査を行った。調査対象者は、全寮制高校Yの校長と教員、NPO法人Bの職員であり、調査はWeb会議システムを用いてオンラインにて実施した。調査の結果、全寮制高校Yは、生徒を寮から一時帰宅させた後、校長の判断の下、若い教員を中心にオンライン授業の可能性を模索しながら、臨時休業中の学習を保障したことが明らかとなった。また、NPO法人Bも、提携する自治体との協議の上で、オンラインによる新しい支援実践の在り方を模索していたことが明らかとなった。こうして、コロナ禍での不登校・高校中退経験者の学習保障では、対面とオンラインとの柔軟な切り替えが重要な論点であったこと、その際、ICTの整備状況だけでなく、オンライン授業への参加を促す「重要な他者」の存在の有無も生徒の出席率に影響を与えること等を分析し、結果の一部を論文にまとめた(2021年6月公刊予定)。 また、コロナ禍以前より政策として進められていた「学校教育の情報化」が前倒しされたことを受け、通信制高校・サポート校と学校教育の情報化に関する文献調査を実施し、調査結果の一部を学会発表や論文にまとめた(2021年6月公刊予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の全国的な感染拡大によって、昨年度末から引き続き、通信制高校+サポート校、定時制高校(夜間課程)+NPO法人、全日制高校(全寮制)+NPO法人の公私連携に関する3つの調査(フィールドワークおよび質問紙調査等)は、いずれも再延期・中止となった。さらに、緊急事態宣言の発出および不要不急の移動に対する強い自粛要請により、基礎研究に必要な資料収集のための出張や移動も大きく制限された。それに伴い、当初描いていた研究計画全体が大幅に遅延し、その進行状況に影響が出ている。 こうした厳しい社会情勢のなか、本年度は改めて、研究計画で予定していた方法論やその限界について見つめ直し、当初の調査対象としていた対面による学習・進路支援のみならず、ICTおよびオンライン(=通信)を活用した学習・進路支援まで、研究の枠組みを広げた。その結果、全寮制高校YやNPO法人Bが実施したオンラインによる学習・進路支援についての新規の調査・分析が進み、学会発表および学会誌への論文掲載という形で、それらの成果発表も順調に進んでいる。 また、昨年度に実施した、全寮制高校Yが立地する地域社会の住民や行政関係者へのインタビュー調査について、現在、文字起こし後のテクストを用いてデータ分析を実施しているところであり、今後の学会発表および投稿論文の執筆に向けて準備が進んでいる。 こうした状況を総合的に踏まえ、本研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の全国的な感染拡大は、2021年度も引き続き、教育現場に深刻な影響を与えるものと考えられる。よって、コロナ禍が継続する間は、学校および学習支援の場への訪問調査は差し控えることとし、不要不急の外出自粛が解かれるまでは、移動を伴う郷土資料・行政資料等の資料収集についても自粛する。感染状況が改善した際には、調査協力校や研究協力者と十分に相談の上で、感染防止対策を徹底しながら、可能な範囲で訪問調査や質問紙調査等を再開する。 次に、感染状況が早期に改善しない可能性を考慮し、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大下における不登校・高校中退経験者への学習支援の実態」について、オンラインを通じた聞き取り調査を各アクターに依頼して、立体的にその構造を描き出すことを試みる。具体的には、全寮制高校YやNPO法人Bの教育実践への追跡調査に加えて、夜間定時制高校XやNPO法人A、これまで調査で関わりのある通信制高校やサポート校にも調査を依頼し、コロナ禍での不登校・高校中退経験者への学習・進路支援実践について、高校課程別にその特徴と課題を抽出する。また、通信制高校・サポート校と学校教育の情報化に関する文献調査を継続し、通信制高校に在籍する不登校・高校中退経験者への学習・進路支援が、情報通信技術(ICT)の進化によってどのように変容してきたのか、「通信」という側面に焦点を当てて調査・分析を進める。 研究成果の公開については、オンラインで開催される学会やシンポジウム等で適宜発表しつつ、引き続き、学会誌や大学紀要等への論文投稿を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年4月以降、新型コロナウイルス感染症の感染が全国的に拡大し、2020年度は大変不安定な社会情勢が続いた。感染拡大防止の観点から、調査協力校およびNPO法人の実施する教育実践へのフィールドワークや質問紙調査等、教育現場に直接赴いて行う調査はすべて延期・中止となった。また、不要不急の移動に関する強い自粛要請が行われたことを受け、県内外への移動を伴う資料収集等をすべて延期することとした。対面での調査に代替する手段として、本年度はオンラインを用いて聞き取り調査を実施したが、Web会議システムが期間限定で無償提供されたことにより、本年度に限ってはその費用が発生しなかった。よって、本来であれば、研究計画で予定していた調査を実施するために使用するはずだった旅費や人件費、物品費等、総額約146万円の研究費を、次年度へと繰り越すことになった。 今後、感染状況が大幅に改善され、当初計画していた対面での調査の実施が可能になった際は、調査校への旅費交通費やインタビューデータの文字起こし費等、予定通りに研究費を使用する。 しかし、感染症の蔓延が収束せず、引き続き対面での調査が実施できない場合は、当該研究費を、オンライン調査のための費用(ビデオ会議アプリの契約費、ソフトウェア購入費等)および、郷土資料・行政資料の収集等、移動を伴わない文献調査の費用(資料の購入費、相互貸借費、複写費等)に充てて使用する。
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