平成29年告示学習指導要領では「語彙指導の改善・充実」が求められている。ただ指導対象となる語彙には量的な限界があり、ほとんどは日々の言語生活の中で価値や必要性を判断しながら自らの意志で学んでいくことになる。そこで重要なのは、語彙を拡充する意義を自覚し、既有語彙をベースに自ら学んでいく自立的な「語彙学習力」を育成することである。これについては従前から指摘があもののその具体的な指導方法は未解明である。 そこで本研究では、昨年度に引き続いて先行研究の整理や検討をさらに進め、理論的背景をふまえて「語彙学習力」の内実を措定し、指導方法を仮説的に設けた上で、報告者自らの指導実践の分析を試みた。浜本純逸(1990)の「既得の語彙への習熟と語彙の構造化・体系化とをあいともなわせることを通して、新しい語句を自力で習得できる学習力を育てる」という知見を軸にしながら、学習者の語彙への意向の実態を取り入れた表現活動を通した指導の有効性を解明しようとした。 重点を置いたのは、語彙の体系を学習者が作り上げること及びそれを具体的な表現対象と照らしながら行うことである。検証の観点は、語彙の体系的な認識の獲得状況、体系的認識の活用状況、さらに措定した「語彙学習力」の内実の変容である。振り返りの記述や作成した「言葉マップ(語彙の構造図)」等、学習成果物を分析し、考察を進めた。その結果、語彙の体系を可視化しながら作り上げること、また、文脈を体系化に生かし、その体系を表現に活用させることが、語彙への興味・関心、語彙使用の省察、語彙の価値等、すなわち「語彙学習力」の向上を促すことを明らかにすることができた。 詳細は、論文(全国大学国語教育学会『国語科教育』第89集)にまとめ、公にした。
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