本研究は、教室内外における実践コミュニティ(Community of practice (CoP))での学びを取り入れた日本語教育を行うタイ国の大学を対象として、卒業生及び教員への聞き取りをもとに大学での学びと卒業後のキャリアの繋がりについて実態調査を行うものである。大学日本語教育のひとつのモデルケースを示すことを目的とする。 本研究では、対象となる教育機関の教育枠組の提示、教育現場に関わる人々の実態調査、複数の手法による多角的なナラティヴ分析、CoP型大学日本語教育の提言、という4つの課題を設定した。初年度から継続して、教育機関の教育枠組の提示、教育現場に関わる人々へのインタビュー調査及び分析を行ってきた。 最終年度では、これまでのインタビュー調査の振り返りを行い、本研究を総括し、CoP型の大学日本語教育の検討を行った。教員側は、様々な事情や学習者のニーズ等の変化も踏まえながら、学科のカリキュラム作成や教育内容の検討に向き合っており、各教員はその立ち位置により、異なる観点から日本語教育の現場を捉えていた。また、卒業生らは、大学での学びについて語る際、現在の個々が置かれている状況と結びつけつつ、各々の学習観や言語観を反映させながら語りを表出していた。CoP型の日本語教育では、学びの深化はコミュニティのメンバーシップの形成とともに進展し、その経験というのは、別のコミュニティに参入していく際に活かされていくことがわかった。
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