2020年スウェーデンで開催予定であった国際教育史学会(International Standing Conference for the History of Education; ISCHE)が、コロナ禍で2021年に延期になったため、研究年限の延長を認めていただき、2021年に無事に学会で研究成果を発表することができた。ISCHEにおける発表題名は、〝Education Trends For Mentally Retarded Children In New York City During The 1940-50s: A Focus On Day School Education”である。1950 年代アメリカニューヨーク市における知的障害児の親の会(AHRC)が実施したI.Q50未満の「重度精神遅滞」児のコミュニティ生活を目指すための教育プログラム開発に焦点を当て、「重度精神遅滞」児に期待された社会生活像とそのために必要な指導の実態を明らかにした。それまで歴史的に社会から隔離されていた「重度精神遅滞」児に対し、子どもがコミュニティと家庭で受け入れられること、生活の幅を広げること 、親の自分の子どもに対する適切な理解を助けることを目指し、子どもとその家族が支援を受けながら社会で生活することを肯定した。つまり単なる「職業自立」だけではない地域サービスを受けながら社会生活をすることを目指した。プログラムの内容は、身辺自立、家事、他者との関わり、身体運動の発達、生活に必要な文字や数等であり、「伝統的なアカデミックな学習内容」とは異なる独自の内容であったが、民主主義の実現という意味において「重度精神遅滞」教育と通常教育の目指す本来の目的は共通であることが強調されたことが明らかになった。
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