本研究の目的は、移民・難民を包摂した国家制度の再編と新しい「寛容」な社会モデルを教育から明らかにすることである。本研究では移民を受け入れながら、その時代時代に置かれている状況を踏まえ常に社会を(再)構築し続けてきたという点で世界における先進的な地域であるマレーシアサバ州を調査対象としている。 新型コロナウイルスの世界的パンデミックによって、2020および2021年度は現地調査が実施できなかったため、収集済の資料を用いて第1の課題(サバ社会における移民・難民の包摂と排除の歴史的変遷を明らかにする)および第2の課題(サバ州の公教育制度における移民および難民の受け入れ方針について、その歴史的な展開を明らかにする)に取り組んできた。最終年(2022年)度は現地調査が可能となったため、第3の課題(移民および難民コミュニティが主体的にアクセスしているノンフォーマル教育の実態について明らかにする)に取り組むことができた。11月の調査は、第15回総選挙の選挙キャンペーンおよび投票日(開票日)期間中に実施することで、今回の選挙の移民集落への影響(選挙キャンペーンで移民の教育問題についてどのように言及するか)や、立候補者の演説内容からサバ社会再編の枠組みについて参与観察を行うことができた。3月の調査では、移民・難民を対象にした教育プログラムへの参与観察と、関係者への聞き取り調査を実施し、コロナ禍における変容等についても調査を行った。これまでに実施した調査から、教育の国民教育制度としての特色を色濃く帯びた制度が隅々まで行き渡り管理されるようになっており、そのような「公」主導の教育発展が、移民・難民の教育プログラムにも大きく影響し変容している実態が明らかとなった。年度内には実現できなかったが、これらの研究成果を論稿にまとめる作業を引き続き進めていく予定である。
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