本研究計画では、初年度に共感覚色と物理色に共通する知覚特性にアプローチして、それらの知見を踏まえて最終年度では神経基盤にアプローチする予定であった。しかしコロナ禍の影響で実験の実施が制限されたことにより、共感覚色と物理色の脳内表象の比較の実験が実施困難となった。しかし、初年度に行った共感覚者の色感度に関する研究の成果はconsciousness and cognition誌に論文投稿され最終年度で採択されるに至った。先行研究では、共感覚者の物理色感度は非共感覚者よりも高いことが示されている。申請者の研究では、共感覚者がどの物理色に対して感度が高いのかは共感覚色との対応関係に依存していること、そしてその対応関係は共感覚者の主観的経験の違い(共感覚色を視覚的に経験するプロジェクターか共感覚色を連想的に経験するアソシエイターか)に依存する可能性を示した。本研究では共感覚者数が十分に多いとはいえず今後再現性の確認のために本論文は追試される必要があるが、共感覚色と物理色感度が対応するという本研究の結果は、共感覚色の経験によって物理色知覚が変化する可能性を示す。また一方で、物理色の経験によって共感覚色が決まる可能性も示す。本研究の結果だけでは共感覚色と物理色の対応の因果関係は不明であるが、今後どちらの因果関係がより妥当であるのかを検討する必要がある。以上のように、共感覚色と物理色感度の対応関係を新たに示したことと、共感覚色と物理色感度の対応の因果関係という今後の研究の展望を示したことが本研究の意義である。
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