最終年度である2021年度は,昨年度の実験結果を分析し,身体へ接近する視覚情報が体性感覚事象の予測自体を容易にすることを論文並びに学会発表で報告した.本研究の結果は,身体へ接近する視覚刺激はその後の体性感覚刺激が呈示される前の予測に関わる神経活動を変調させることを示すものである.具体的には,身体へ視覚刺激が接近することで,第一次体性感覚野近傍の電極(C3,C4)において体性感覚刺激の呈示前約300 msからβ帯域の周波数スペクトラパワー値が抑制された.この抑制はイベント関連脱同期(event-related desynchronization:ERD)と呼ばれ,体性感覚刺激呈示前のβ帯域のERDは次に呈示される体性感覚刺激が予測可能な際に生じる.この結果は,視覚刺激の接近がその後の触覚事象の予測自体を容易にすることを示している.以上の成果は国際学術誌であるNeuroreportに掲載され,また掲載号の表紙に選ばれた.また,日本生理心理学会大会で発表した. 研究期間を通し,外傷の回避や他者との社会的相互作用にとって重要な体性感覚の予測が,身体へ接近する視覚情報によっていかになされるか,その予測の形成過程を明らかにすることができた.これは,先行研究で報告されていた視覚体性感覚間の予測誤差に基づく予測の修正過程と合わせ,ヒトの予測システムとそのシステムを活用した環境適応を検討するための知見になると期待される.
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