日本人は西洋人と比べて情報を処理する際に文脈を極めて重視するという文化的特徴を持つことから、本研究では文化間研究の違いを生み出す理由として実験で用いられた笑顔の文脈情報に着目し実験を行った。これまでの研究により、「親和的な状況で表出された」という文脈情報が呈示された場合には日本人は西洋人よりも呈示された笑顔が「意図的に作成された笑顔である」という判断を行うことがわかっていたが、信頼ゲームにおいては「より自然な笑顔である」と判断される笑顔も「より意図的な笑顔である」と判断される笑顔の間で違いが生じなかった。まず表情刺激の分散を評価するため、自動表情運動システムの比較を行った。その結果、既存の自動表情運動システムの性能を系統的に評価できた。この成果はSensors誌に採択され出版された。 また、文脈には多様な環境が想定されるため、より自然な笑顔が観察されることが期待される対話場面で異なる情報処理が観察者に生じるかの検討を行った。その結果、どの場面においても「空想場面に自身を投射する傾向を持つ観察者」がより妥当な笑顔の解釈を行うことが分かった。この研究成果は、Reading Psychology誌に採択され出版された。さらに研究2とは異なる文脈で観察者がどのようにふるまうのかを検討するために、表情を学習の報酬として適用した際の観察者による学習行動を検討した。その結果、より自然に笑顔が生じる条件で観察者の学習率が低下することが明らかとなった。この研究成果は、Frontiers in Psychology誌に採択され出版された。これらの結果から、個人特性と多様な文脈が相互に作用する日本人観察者の複雑なふるまいが明らかとなった。
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