従来の社会心理学研究では、身体的に痛みを感じた際に活動する脳領域が集団から排斥された場合にも活動することから、集団から排斥されると、人は比喩を超えた真に「痛み」を経験しているという共有表象仮説が提案され、集団から排斥された際の心理反応を「社会的痛み」と呼んできた。しかし、上記の脳領域は痛み以外にもさまざまな活動に関与するとされており、排斥された際に同領域が活動することが、必ずしも痛みを経験していることを表すのではない。 新型コロナウイルス禍の影響により、実験設備の利用や実験機器を有する機関への出向が厳しく制限され、最終年度まで実験を実施できなかった。その間、共有表象仮説を巡る理論的問題や残された課題、近年の研究動向を整理し、それらを総説論文として発表した。 最終年度では、電気刺激による身体的痛みと集団から排斥されることによる社会的痛みを同一の実験参加者に与え、両条件下における脳活動をfMRIを用いて比較した。分析の結果、先行研究と同様の手続きにより社会的痛みを喚起させたにも関わらず、痛みに関与する脳領域の活動が見られず(身体的痛み条件においては活動が見られた)、先行研究の結果が適切に再現されなかった。そのため、研究期間終了の直前に実験デザインを変更し、再度データを追加で収集し、解析を進めている。 加えて、fMRIを用いた研究で従来の結果が再現されなかったことを受け、オンライン実験によっても社会的痛みと身体的痛みを比較することとした。これについても得られたデータの解析を進めている。
|