研究実績の概要 |
【意義・重要性】マインドフルネス実践法では、感覚・感情・思考などの経験に対して抑制することなくありのままに気づくことで経験の受容や緩和が進むと考えられている。一方で、経験を無自覚的に避けたり抑制したりしてしまうことで有害事象が生じる可能性も指摘されている。しかし、そのような能力を外部から把握することは難しく、また本人が把握することも難しい。そこで、経験にありのままに気づく能力を客観的に測定できる生理指標が求められている。 【具体的内容】2019年度の研究では、自然な呼吸に注意を向けると呼吸が不自然になるという現象に注目して、自然な呼吸をしている際と、自然な呼吸に注意を向けた際の呼吸変動の差分を用いた生理指標の開発を試みた。実験では、瞑想未経験者40人を対象として、呼吸計測装置を用いて安静時と観察時の呼吸変動を測定するとともに、質問紙を用いて人格特性を測定した。解析では、ポアンカレプロットを用いて安静時と観察時の呼吸変動のばらつきの差分を算出した上で、その差分と人格特性との相関を検討した。その結果、安静時と比べて観察時に、呼吸変動のばらつきが大きいことが示された。また、このばらつきの大きさと、日本版Five Facet Mindfulness Questionnaire(Sugiura et al.,, 2012)の「反応しない特性」との間に負の相関がみられた一方で、セルフ・コンパッション尺度日本語版(有光他, 2014)の「自己批判の特性」や中学生用情動知覚尺度日本語版(石津・下田, 2013)の「情動の注目と分かち合い特性」との間に正の相関が見られた。これらの結果は、安静時と観察時の呼吸変動のばらつきの差分を、経験にありのままに気づく能力の生理指標として使用できる可能性を示唆している。
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