2019年度は、自然な呼吸に注意を向けると呼吸が不自然になるという現象に注目して、自然な呼吸をしている際と、自然な呼吸に注意を向けた際の呼吸変動の差分を用いた生理指標を開発し、その指標と複数のマインドフルネス関連の質問紙との間に相関関係があることを確認した。 2020年度は、呼吸変動の計測装置や呼吸変動の測定方法のブラッシュアップと、生理指標と情動的な妨害刺激に対する抑制との関係を確認するための新たな情動調整課題の開発と実験に取り組んだ。 従来の妨害刺激を用いた情動調整課題では、その反応時間や課題成績といったパフォーマンスによって、情動調整能力を測定することは可能であった。しかし、そのパフォーマンスが、妨害刺激を抑制したことで実現したのか、妨害刺激に振り回されないことで実現したのかまでは把握できなかった。そこで、本研究では、妨害刺激を抑制するとその妨害刺激に対する選好度が低下するという価値の低減効果に注目して、表情顔を妨害刺激として用いた情動調整課題と選好度判断課題を組み合わせた新しい課題を考案し、48名の学生を対象にして実験を実施した。その結果、表情顔を、抑制する必要のないターゲット刺激として用いると表情顔に対する選好度が高まるのに対して、表情顔を、抑制する必要のある妨害刺激として用いると表情顔に対する選好度が高まらないことを確認することができた。 本研究よって、マインドフルネスの中核的な機能である、対象に対して抑制せずにありのままに気づいている能力を客観的に測定できる方法を提案できた。 今後は、これらの計測装置、計測方法、情動調整課題を組み合わせて、生理指標と情動的な妨害刺激に対する抑制との関係を確認するための研究を進める予定である。
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