研究課題/領域番号 |
19K23395
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
白間 綾 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部, リサーチフェロー (50738127)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 認知機能障害 / 瞳孔計測 |
研究実績の概要 |
統合失調症における認知機能(注意、記憶等)の低下は難治療性であり,当事者の社会参加を阻む大きな障害となっている。認知機能に関与する神経系は複数あり,このうち皮質,海馬,大脳基底核,視床を含む広範な領域に投射する青斑核(LC)ノルアドレナリン(NA)系は警戒機能(アラートネス)とよばれる機能を担うことがわかってきた。前帯状皮質はアラートネスの切り替えに関わるが,統合失調症では同領域に解剖学的・機能的異常が認められる。アラートネスとは,様々な認知課題において関連刺激への反応の選択性を高め,課題に最適な覚醒状態を維持する機能である。瞳孔径はLCニューロンの発火頻度を反映することから,統合失調症の非定型アラートネスを明らかにするための有用な指標となりうる。 神経活動時系列における複雑性の低下は,さまざまな精神疾患(うつ,統合失調症,アルツハイマー型認知症等)と関連づけられる。なかでも瞳孔径の自発的変動はヒップス(hippus)と呼ばれ,青斑核の活動を反映する。異常なヒップスをもつ患者はそうでない患者と比べ,入院後1ヶ月の累積死亡率が3倍になることが知られ(Denny et al., 2008),神経系の異常を反映すると考えられる。しかし瞳孔径の制御神経系は複雑であり,これまでの解析法には限界があった。そこで本研究では,瞳孔径時系列の複雑性と非対称性を組み合わせた解析により,交感・副交感神経系,青斑核神経活動のリアルタイム推定法を作成した。なお解析方法の確立に関して,千葉工業大学と福井大学の研究者から協力を得た。解析方法については,現在特許申請の手続きと論文投稿の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は健康成人23名程度から測定した瞳孔径データを対象として,交感・副交感神経活動を推定する手法を確立することを目標としてきた。瞳孔径は交感神経系と副交感神経系の二重支配を受ける(図1)。交感・副交感神経系の主要な入力元として,大脳皮質の覚醒を制御する青斑核がある。青斑核活動は副交感神経系に対し抑制性の入力として伝わる一方,交感神経系では興奮性入力として伝わる。と同時に,副交感神経系では左右の青斑核活動は反対側にも伝達されるが,交感神経系は同側にしか伝わらない。これにより,青斑核活動の左右差を反映して,瞳孔径にも左右差が生じる(Liu et al., 2017)。本手法では瞳孔の非対称性・複雑性の解析により,初めて副交感神経系活動と,交感・副交感神経系の相互作用の同時推定が可能になった。また,健康成人の瞳孔径データの解析に加えシミュレーションにより本手法の妥当性の検証を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は2年目の目標である,統合失調症におけるアラートネスの非定型性の検討を進める。具体的には眼球運動計測器を用い,統合失調症患者20名程度を対象に,resting state時の瞳孔径を計測する。先行研究では,統合失調症患者を対象に,瞳孔径を指標とした研究がいくつか行われているが,瞳孔データの解釈が難しいと考えられている。統合失調症では,瞳孔径制御に関与する交感神経系と副交感神経系の両者に異常が生じることが想定され,両系の寄与を区別することができない。そこで本研究では,1年目に検証した瞳孔径の解析手法を用い,統合失調症患者の自律神経2系統の活動の同時推定を行う。現在,COVID-19の影響で,研究の実施にさまざまな支障が生じており実施の遅延が予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた実験器具の納品と支払いが、COVID-19の影響で遅延した影響により、本年度の予算使用が当初の計画通りに進まなかったため。
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