研究実績の概要 |
本研究の目的は統合失調症における認知機能(注意、記憶等)の低下について、瞳孔径から交感神経系および副交感神経系の活動を同時に推定できる手法により、非侵襲的に認知機能低下の神経基盤の異常を明らかにすることであった。認知機能に関与する神経系は複数あり、このうち皮質、海馬、大脳基底核,視床を含む広範な領域に投射する青斑核(LC)ノルアドレナリン(NA)系は警戒機能(アラートネス)とよばれる機能を担うことがわかってきた。前帯状皮質はアラートネスの切り替えに関わるが,統合失調症では同領域に解剖学的・機能的異常が認められる。アラートネスとは,様々な認知課題において関連刺激への反応の選択性を高め,課題に最適な覚醒状態を維持する機能である。瞳孔径はLCニューロンの発火頻度を反映することから、瞳孔径の解析によりLC活動をリアルタイム推定が可能となる。しかし、瞳孔径を制御する神経系は、交感神経と副交感神経の二重支配を受けるなど単純でなく、データの解釈には限界があった。加えて、瞳孔径の時系列の挙動には複雑なパターンが含まれるが、なぜ複雑な挙動がしょうじるのかほとんどわかっていなかった。そこで本研究では、瞳孔径の時間的な複雑性と左右瞳孔の非対称性の解析により、覚醒や注意機能を担うLCの活動を推定する手法を確立した(Shirama et al., 2020 Plos One; Nobukawa et al.,2021 Frontiers in Physiology; Nobukawa et al., 2021Scientific Reports)。なお解析方法の確立に関して,千葉工業大学と福井大学の研究者から協力を得ており、共同で特許出願を行なった(特願2020-168949)。
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