本研究では,グラフ上のリッチ曲率を用いて実践的かつ効率的なアルゴリズムを構築することを目的としている.これまでの研究で,グラフ上のリッチ曲率に関する幾何解析学的性質は十分に明らかにすることができているので,最終年度では,それらの幾何解析学的性質を応用させて,次の2つの研究成果を挙げることができた. 1つ目は,グラフ上のリッチ曲率を一般的な単体的複体に拡張し,リッチ曲率を用いて単体的複体上のラプラシアンの固有値を不等式評価したことである.具体的な単体的複体もいくつか構成できたことで,リッチ曲率と単体的複体の構造がより可視化され,ビックデータの解析に貢献できると考えられる.本研究成果は現在,国際雑誌に投稿中である. 2つ目は,櫻井陽平氏(埼玉大)と小澤龍之介氏(防衛大)との共同研究で,有向グラフ上の非対称な平均曲率を導入することで,正のリッチ曲率を持つ有向グラフの最大直径定理を証明したことである.本研究成果から有向グラフにおいてもリッチ曲率の値が大きくなればなるほどグラフが密になっていることが明らかになった.密なグラフは高連結なグラフであるため,効率的なアルゴリズムの構築に大きく貢献した.本研究成果は,Communications in Analysis and Geometryに受理された. 今後の研究の展開としては,これらを組み合わせることで実践的なアルゴリズムを新たに構築して,実データを用いて検証していく予定である.
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