研究課題/領域番号 |
19K23413
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮崎 弘安 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 基礎科学特別研究員 (50799765)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
キーワード | モジュラス付きモチーフ理論 / モチーフ / モジュラス / Nisnevich位相 / ホモトピー不変性 |
研究実績の概要 |
モジュラス付きモチーフ理論を展開する基盤となる位相の理論を確立した. モチーフ理論は数論幾何の様々なコホモロジーを制御することを目指すものであり,Milnor予想の解決をはじめとした様々な応用をもたらしてきた.しかし現在のモチーフ理論は,数論幾何に多数存在する非ホモトピー不変な対象を捉えられないという弱点を抱えている.これを克服するため,代数多様体のコンパクト化の境界として現れるカルティエ因子(=モジュラス)の情報を付加してモチーフ理論を再構成するというのが,Kahn-齋藤-山崎によって提唱されたモジュラス付きモチーフ理論のアイディアである.実際に理論を展開するためにはいくつかのステップが必要だが,モジュラスの情報を考慮した位相の理論は欠かせない一歩である. モチーフ理論で用いられるNisnevich位相はZariski位相とエタール位相の性質を程よく受け継ぐ扱いやすい位相である.特に,代数多様体のある種の可換図式のデータ(cd-構造)から生成される位相として特徴付けることができるという点はエタール位相との大きな違いである.モジュラスを付加した完備な代数多様体のことをモジュラス対と呼ぶが,代数多様体のcd-構造の類似物をモジュラス対に対してうまく定義することによって,モジュラス対の位相の概念を定めることに成功した.さらにこのcd-構造が完備性・正則性と呼ばれる良い性質を満たすことも証明できた.また,Bruno Kahn氏との共同研究で,モジュラス対の圏から代数多様体の圏への標準的な関手が連続かつ余連続であることも証明できた. さらに,Bruno Kahn氏,齋藤秀司氏,山崎隆雄氏との共同研究で,モジュラス対のコホモロジー理論を展開することもできた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モジュラス付きモチーフ理論を本格的に展開するための基盤となる位相の理論が整備された.それをまとめた論文2編はいずれも査読付き論文誌に掲載受理されている.また,コホモロジー理論に関する2編の連続論文も国際論文誌に投稿することができた.以上の通り,研究は概ね順調に進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
多くの研究者と連携しつつモジュラス付きモチーフ理論の研究を推進する.Bruno Kahn氏,齋藤秀司氏,山崎隆雄氏とはモジュラス付きモチーフ理論のさらなる基盤整備に取り組む.またShane Kelly氏と取り組んでいるtransferなしのモジュラス付きモチーフ理論の研究も本格的に進める.新型コロナウィルスの影響により,研究室への出勤や議論のための出張ができないなど物理的な制約は多いが,本研究費で調達した電子機器等を活用してオンラインでの議論を精力的に推進する.またオンラインで行われているモチーフ理論の研究集会やセミナーにも積極的に参加して情報収集に努める.対数モチーフの理論を最近発表したOestver氏に招かれてセミナーで講演することにもなった.対数モチーフはモジュラス付きモチーフ理論と密接に関連すると考えられるので,情報交換に努める.
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度末にケンブリッジ大学の研究集会に参加する予定だったが、新型コロナウィルス感染症の影響で集会がキャンセルとなったため、次年度使用額が生じた。翌年度は、これを海外の研究者とのオンラインでの共同研究に用いる電子機器類の購入等に活用する。
|