研究課題
本研究では、4f電子を有するYb141系に注目し、価数に由来する量子臨界現象の探索を行った。当初は多結晶試料の研究を行っていたが、その過程でYbCu4NiとYbCu4Auの単結晶合成に成功した。特に、YbCu4AuはX線を用いた単結晶構造解析、粉末X線回折による構造解析、EDS、そして磁化測定を行い、結晶の質を丁寧に評価した。これらの結果は、多結晶試料による先行研究の結果と一致しているので、目的の化合物の単結晶合成に成功したと結論づけた。磁化測定では、低温で予想外な振る舞いを観測したが、局在した模型を仮定した平均場計算との比較により、近藤効果がこの振る舞いの起源であることが分かった。まだ、磁場は一方向のみの測定であるので、印可方向に対する異方性を調べて、より情報を集める必要がある。また、YbCu4NiとYbCu4Auの両者において、希釈冷凍機を用いた電気抵抗測定を行った。両者とも、高温における電気抵抗の値は多結晶試料と定量的に一致している。そして、-ln Tの温度依存性を示したので、c-f混成の強い系であることを確認した。そして、YbCu4Niについては、多結晶試料の純良化にも成功した。これは、Cu-NQRスペクトルを行って、共鳴線がよりシャープになっていることを確認したことにより結論づけた。また、4He温度の核磁気緩和率測定も行い、NQR共鳴周波数と緩和率の値から目的の化合物であることを確認した。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は、本研究の課題の一つであるYbCu4Niの試料の純良化及び大型の試料作製に成功した。この良質な大型試料作製が決め手となり、muSR測定を2ヵ所で測定することができることになった。これまでのマクロ測定により、ゼロ磁場、低温で量子臨界性が報告されていた。このmuSR測定により、低温において時間反転対称性の破れの有無と磁気ゆらぎの検出が期待でき、その基盤となる試料作製の成功は重要な成果である。また、YbCu4NiとYbCu4Auの単結晶試料の作製にも成功した。これまでの研究は多結晶であったので、磁場に対する異方性などの研究が可能となる。特に、YbCu4Auは磁場誘起の量子臨界点の存在と価数転移が報告されている。これは、両者の現象の起源となる相互作用が磁場によって制御されていることを示唆する。単結晶試料を用いることで、磁場に対する異方性の情報を得ることが期待できる。対称性の議論を基にして、両者の現象の背後に存在する相互作用を同定し、その機構解明を目指す。
YbCu4Niが低温で示す量子臨界性の機構解明に向けては、東海村のJ-PARCとイギリスのISISが有するミュオン源を用いて、極低温muSR測定を行う。この研究では、低温で時間反転対称性の破れの検証を行うと同時に、磁気揺らぎの検出も目指すので、大きな試料の作成が可能である多結晶試料を用いる予定である。単結晶YbCu4Niを用いた研究では、磁場印可方向を変えながら、量子臨界性について電気抵抗、磁化、比熱測定を行う。単結晶YbCu4Auを用いた研究では、磁場誘起の価数転移と量子臨界性に注目して、温度-磁場相図の作成を目指す。以上は当初の計画以上に進んだ今後の計画である。さらに、東京大学物性研究所が有する圧力測定装置も利用し、共同研究を通して圧力効果も調べる予定である。特に、YbCu4Auについては圧力誘起の磁気転移の可能性が期待できる。そして、圧力下の中性子散乱実験も行い、秩序構造の決定を目指す。価数転移の決定はNMR測定と光電子分光測定を組み合わせて決定する予定である。Cu-NMRを行うことで、四重極分裂の大きさから価数転移の兆候と価数揺らぎに付随する磁気揺らぎの検出を目指す。また、光電子分光測定では価数の絶対値を決定することができるので、秩序変数の決定を目指す。
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JPS Conference Proceedings
巻: 30 ページ: 011107
10.7566/JPSCP.30.011107