研究課題/領域番号 |
19K23417
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
谷口 貴紀 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70849950)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 量子臨界現象 / ミュオンスピン緩和 / 中性子散乱 / 放射光 / Yb化合物 / 核磁気共鳴 / 重い電子系 |
研究実績の概要 |
本研究では、4f電子を有するYb141系に注目し、価数に由来する量子臨界現象の探索を行った。その探索の過程で、YbCu4AuとYbCu4Niの単結晶合成に初めて成功した。以下ではそれぞれの物質の成果について述べる。 YbCu4Auは多結晶試料において磁場誘起の量子臨界性を示す報告例のある物質である。この量子臨界性の起源は、スピンと価数の両方が関係しているという指摘がある。本研究ではその詳細を調べるために単結晶合成に挑戦し、大型の単結晶を得ることができた。そして、希釈冷凍機を用いた基礎物性測定とmuSR測定を行った。比熱測定から、新たに2段転移を観測し、量子臨界性が強くなる条件で2つの転移温度が一致する振る舞いを見出した。電気抵抗測定からもそれぞれの転移温度において異常が観測された。この2段転移が試料の質でないことを確認するために、異なる手法を用いて単結晶試料を新たに合成し、試料依存性を調べた。その結果、2段転移が再現されたので、本質であると決定した。さらに、muSR測定を行い、2つの相転移の体積分率に変化がないことからも2段転移が本質であることを支持する。 YbCu4Niはゼロ磁場常圧で有効質量が非常に大きな物質である。しかし、その起源はまだ明らかになっていない。そこで、純良な試料合成に挑戦し、希釈冷凍機を用いた電気抵抗測定とmuSR測定を行った。その結果、低温まで磁気揺らぎが発達し、その後にはフェルミ液体になることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度はYbCu4AuとYbCu4Niに対して希釈冷凍機を用いた基礎物性測定とミュオン測定を行った。その結果、当初では予想していなかった成果を両者共に得ることができた。詳細を以下に記す。 YbCu4Auに対して、比熱測定及び電気抵抗測定を希釈冷凍機を用いて行った結果、ゼロ磁場で2段転移を見出した。試料依存性も懸念されるので複数の試料で調べたところ、2段転移が再現されたので、YbCu4Auの本質であると決定した。また、muSR測定から、2つの相の体積分率は一緒であるので、共存しているとは考えられない。これは、2段転移が本質であることを支持する。この2つの相は1.3 T近傍で一致する様子が見られた。今後はNMR測定なども行い、臨界点近傍の電子状態を決定する予定である。 YbCu4Niは電気抵抗測定とmuSR測定を希釈冷凍機を用いて行った。その結果、相転移に由来する異常は観測されなかった。一方で、ミュオンスピン緩和率はおよそ0.1 K以上で降温に伴って増大し、その後に一定となる振る舞いを観測した。これは、磁気揺らぎが低温ほど発達し、0.1 K以下でフェルミ液体状態に変化したことを示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題において、高品質な試料合成に成功したことを決定することができた。そして、極低温測定における基礎物性およびmuSR測定を行うことができた。今後に実施する実験予定を以下に記す。 YbCu4AuとYbCu4Niの両者ともに既に中性子散乱実験を行う準備ができている。両者の結晶構造のパラメータを決定し、研究を進める上での基盤を確固たるものにする予定である。また、放射光実験も行う予定であり、こちらは価数の変化を直接的にとらえることを目的としている。さらに、量子臨界性の強い領域においてはNMRも行う予定であり、動的磁化率の情報を得ることを目的としている。これらの結果についてはそれぞれ論文として結果をまとめる所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を進める上で、単結晶合成とそれらが示す物性は当初の予想とは異なるものであった。特に、YbCu4Auは極低温で詳細に基礎物性から調べる必要性が生じ、量子ビーム測定は一部のみの執行となった。執筆する論文数は増加したのでこの変更は妥当であると考えている。そのため、論文と実験の旅費に必要な経費を確保すべく次年度に経費の一部を延長することにした。 上記のため、延長した使用用途は論文掲載と旅費である。特に兵庫県のSPring-8と茨城県のJ-PARCへの出張は複数回に及ぶと予想されるために上記の金額を延長する。一方で、今後の研究活動に邁進するために、さらに大量の単結晶合成が必要となる。そこで、並行して一部の原料費も経費として計上する予定である。
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