研究課題
本研究では昨年度に純良な多結晶合成に成功したYbCu4Niに対して、粉末中性子回折実験、極低温電気抵抗測定、そして極低温ミュオンスピン緩和実験を行った。以下ではそれぞれの実験から得られた成果を述べる。YbCu4Niはゼロ磁場で大きな電子比熱係数をもつf電子化合物である。現在、その巨大な電子比熱係数の起源は明らかになっていない。そこで、本研究では純良な試料を合成し、粉末中性子実験では構造解析を、極低温電気抵抗測定では特性温度の見積もりを、極低温ミュオンスピン緩和実験ではスピン揺らぎの温度依存性をそれぞれ調べた。粉末中性子回折実験は、JRR-3にあるT1-3 HERMESで行った。中性子は原子番号が近接しているNiとCuの散乱長が異なるために散乱強度からNiとCuを区別して観測することができる特徴を持つ。解析の結果、これまでに提案されていた構造とは異なり、NiとCuはsite mixingを有することが明らかになった。このため、巨大な電子比熱係数の起源は量子臨界現象以外にもKondo disorderの可能性が浮上している。電気抵抗測定では、0.3 K以下で温度の二乗則を示し、ミュオン緩和率は温度に対して一定となる振る舞いを観測した。これは、0.3 K以下でコヒーレントな状態であることを示唆する。現在は、電気抵抗とミュオンスピン緩和率の温度依存性をシミュレーションし、電子比熱係数の起源として量子臨界現象とKondo disorderの2つの可能性の検証を行っている。
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Journal of Applied Physics
巻: 131 ページ: 013903~013903
10.1063/5.0064355