研究課題/領域番号 |
19K23419
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小野 淳 東北大学, 理学研究科, 助教 (40845848)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 遍歴磁性体 / 光誘起相転移 / 二重交換相互作用 / スピンカイラリティ / 磁気スキルミオン / ディラック半金属 / スピントロニクス / 非平衡現象 |
研究実績の概要 |
強相関磁性体への光照射によって誘起されるスピン構造の実時間ダイナミクスを明らかにするために数値的解析を行った。これまでに得られた知見をさらに発展させる形で,主に以下の成果が得られた。 (1)二重交換模型で記述される強磁性金属状態に静電場を印加することで反強磁性への不安定性が誘起され,定常状態における電流が電場の大きさに反比例することが見出された。これは静電場印加によって反強磁性絶縁体への転移が生じることを示唆する。電場下の絶縁体的状態としてワニエ・シュタルク局在が古くから知られているが,本研究で見出されたものは磁気転移を伴っており,新しいタイプの光誘起相転移であると捉えられる。転移に必要な電場の強度は最近の高強度テラヘルツパルス光源によって到達可能な大きさであり,実験的な検証のための指針を与えることができた。 (2)三角格子上の空間反転対称性を持つ強磁性金属へのテラヘルツパルスにより,スピン120度構造やスカラーカイラル構造と呼ばれる磁気構造が現れることが見出された。この120度構造は,平衡状態では強磁性的な二重交換相互作用が光照射下において反強磁性的に振る舞うという我々が以前に得た知見を三角格子系に拡張することで理解でき,“反強磁性的”二重交換相互作用という概念を一層補強するものである。また,パルス照射後には磁気スキルミオンが生成されることも明らかになった。これらは空間反転対称性の破れを必要としないため,光照射によるスピンカイラリティ状態や磁気スキルミオン状態の生成の新たな方向性を拓くものである。 (3)スピン軌道相互作用が重要な役割を果たす系として反強磁性ディラック半金属と呼ばれる物質の理論模型を導入し,直流電場ならびにテラヘルツパルスによって誘起されるダイナミクスの解析を行った。交替磁化方向とバンドギャップがピコ秒程度の時間スケールで変化することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記研究実績について日本物理学会や米国物理学会の会議で口頭発表を行い,一部の内容は学術論文として出版済み,または投稿中である。また,昨年度の強相関電子系における高次高調波に関する研究から研究開始当初は予想されていなかった新たな高速現象が見出されており,論文投稿準備を進めている。しかしながら,当初の補助事業期間内にすべての成果を学術論文として出版することができなかったことから,全体としてはやや遅れていると判断するのが妥当である。
|
今後の研究の推進方策 |
主要な計算データは得られているため,今後は学術論文の出版に向けて注力する。また,世界的な感染症の拡大により主に国外での発表や議論が制限されたため,補助事業期間を延長することで成果発表の機会を確保する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大を受けて多くの国内・国際会議がオンラインでの開催となったため,当初計画よりも旅費が大きく減少した。次年度の旅費および会議参加費等として使用する。
|