研究実績の概要 |
電子の磁気的な性質(スピン)と空間分布(軌道)を結びつけるスピン軌道相互作用は、非従来型の磁性や電気伝導性といった新しい電子物性を実現するための重要な相互作用として、近年の物性物理分野で注目を集めている。スピン軌道相互作用の効果は、周期表の後半に位置する遷移金属元素の4d,5d電子において強く現れる。本研究では主に5d電子を有する磁性体に着目し、一般的な実験室では発生させることができない強い磁場を用いた物性測定により、スピンと軌道が強く結びついた電子自由度が示す未知の磁気状態を実現することを目的とした。 2020年度は、当初予定していたタンタル(Ta)の5d電子だけでなく、Taと同様の電子状態を実現するニオブ(Nb)やレニウム(Re)を含む化合物に対象物質を拡大し、試料合成と60テスラに及ぶ強磁場領域までの物性測定を行った。 分子軌道に5d,4d電子が入った欠損スピネル型セレン化物GaM4Se8(M=Nb,Ta)において、磁場に反応しない強固な非磁性基底状態と軌道自由度に関する新奇相転移を発見した。ダブルペロブスカイト型ハロゲン化物Cs2MX6(M=Nb,Ta,X=Cl,Br)に関する系統的な物性評価から、臭素化物では塩化物に比べてスピン軌道相互作用の効果がより顕著に現れることが明らかになった。ダブルペロブスカイト型酸化物Ba2CaReO6において、50テスラという強磁場により引き起こされる相転移を発見した。磁化測定と磁歪測定から、スピンと軌道が結びついた電子自由度の配列が劇的に変化する未知の相転移であることが明らかとなった。以上の成果を、国際論文誌、強磁場科学分野の国際学会、日本物理学会において発表した。 以上の成果は、スピン軌道相互作用の強い磁性体の物性開拓、物質開発にとって先駆的な結果であるといえ、物性物理分野の進展に寄与することが期待される。
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