研究課題/領域番号 |
19K23422
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西口 大貴 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20850556)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | アクティブマター / 集団運動 / トポロジカル欠陥 / 細胞集団 / バクテリア / 非平衡物理学 / 非平衡統計力学 / 生物物理学 |
研究実績の概要 |
多細胞生物の発生などにおける細胞集団運動の理解は、非平衡統計物理学の重要な課題である。本研究課題では、自己駆動する要素の集団を記述するアクティブマター理論を実験により深化させることで、この問題に迫る。細胞の集団運動が示す外場や境界条件への応答を、その細胞配向場中のトポロジカル欠陥の非平衡ダイナミクスに着目しつつ実験的に調べることで、アクティブマターの集団運動における秩序・ゆらぎ・応答を結ぶ関係を解明することを目指している。 2019年度は、哺乳類細胞の集団運動の外場への応答の定量測定のために、必要な実験設備や実験材料の準備をおこなった。具体的には、まず哺乳類細胞培養設備の立ち上げに注力し、基本的な培養環境およびライブイメージング環境の構築を整えた。また、本研究に使用予定の細胞株の準備も進めた。フランス・パリのパスツール研究所の共同研究者のもとに滞在し、本研究に有用な細胞株の準備をおこなった。凍結保存バイアルを大量に作成し、発送準備まで進めたものの、新型コロナウイルス感染症の影響でパスツール研究所の当該研究室がシャットダウンされたため、細胞株輸入の目処が立たなくなった。代替案として、国内で類似の細胞株を入手する検討を進めた。 これらと並行して、哺乳類細胞実験の環境が整うまでの間、バクテリアを用いて集団運動におけるトポロジカル欠陥ダイナミクスについて調べた。バクテリアの集団運動の示す乱流状態中に微小な柱を配置すると、その柱が流れ場のトポロジカル欠陥として振舞うことを実験的に発見した。また、この流れ場のトポロジーを連続場理論レベルで再現する境界条件を実験的に推定し、その妥当性を個体レベルの表面配向に基づいて説明した。これらの結果を解析計算で示すことにも成功した。本研究により、アクティブマターの集団運動に新たな境界条件を提案することができた。以上の成果を論文にまとめ投稿し、受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施予定だった培養細胞実験は、細胞株のフランスからの輸出の行政手続きに時間がかかっている最中に、残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けパスツール研究所の当該研究室がシャットダウンおよびパリ市がロックダウンされたため、細胞株輸入ができず、実施できなかった。一方で、代替案の検討を進め、日本国内のみで最低限必要な細胞株を入手する目処をつけた。また、細胞株を除く実験設備については十分に整えることができた。 上述の事情から、培養細胞の実験の代替策として、実験設備の整備と並行して、バクテリアを用いた実験および理論研究を進めたが、これを通して理論的に新たな理解が得られた。得られた結果を論文としてまとめ投稿し、受理された。この研究により集団運動一般におけるトポロジカル欠陥の理論的な理解も深化させることができ、将来的に哺乳類培養細胞系で実験的に検証すべき新たな理論予測なども得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、当初使用予定であった細胞株と類似の細胞株を国内の細胞バンク等から入手し、基本的な実験をおこなえるようにする。必要であれば、細胞株に変異を加える。 実際に細胞集団運動の観察をおこない、そのトポロジカル欠陥のダイナミクスをまず外場のない条件下で観察・解析する。並行して、細胞集団に外場を加える実験系を構築し、外場に対する細胞集団のダイナミクスを、トポロジカル欠陥の運動に着目して解析をおこなう。 さらに、バクテリア実験を通して得られた集団運動中におけるトポロジカル欠陥や境界条件に関する理論的予測を培養細胞集団において検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、予定していた細胞株が届かなかったため、試薬類の使用量が大幅に少なくなった。また、これに伴い、初年度に導入予定だった装置の一部導入を翌年度に繰り越すこととした。 2020年度に繰り越した経費は、新たなルートで細胞を手に入れるための経費として使うほか、2019年度に実施できなかった分の実験用の試薬類や繰り越した装置購入費用など当初の予定通り使用する予定である。
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