細胞の集団運動が示す外場や境界条件への応答を調べるため、細胞配向場中のトポロジカル欠陥の非平衡ダイナミクスに着目した実験をおこなった。これにより、多細胞生物の発生過程や生理現象などにおける細胞集団運動の理解へとつながるように、アクティブマター理論の適用可能範囲を拡張することを目指した。 2020年度は、まず哺乳類細胞の集団運動の外場への応答の定量測定のための実験系を完成させた。具体的には、共同研究先のフランス・パリのパスツール研究所から、コロナ禍の合間を縫ってヒトの血管内皮細胞株を輸入し、ストックの作成などの作業をおこない、細胞培養のルーチン作業に必要な環境を確立した。その上で、内皮細胞集団が血流を模した剪断流という外場に応答するダイナミクスのライブイメージング環境を構築した。具体的には、顕微鏡ステージ上の微小流体デバイス内で細胞を育てつつ、培地を循環させながら数日間連続して安定した無脈動の流れをかけ続けられる灌流システムの構築および、灌流用のチューブやポンプ類を含めた灌流システムと顕微鏡の実験系全体を覆う37℃保温システムの作成をおこなった。これにより細胞の形成するネマチックな集団運動が外場に応答する過程を安定してタイムラプス観察することに成功した。画像解析により細胞の配向場を得て、配向場のトポロジカル欠陥を検出・追跡し、その対消滅過程や運動と外場の結合の特徴付けをおこなった。現在、追加の実験と解析をおこなっている。
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