本研究では、物質(固体)の電子的、磁気的秩序が光で増強されたり、生成されるといった新しいタイプの光誘起相転移について理論的に調べた。得られた主な成果は、励起子(エキシトニック)絶縁体における光による秩序増強機構の解明、およびスピン軌道相互作用のある電子系での光誘起スピン偏極機構の提案である。これらの成果は、最終年度にそれぞれ論文として出版された。以下ではそれらをより具体的に述べる。 前者では、研究代表者がこれまでに行ってきた研究をさらに進展させ、先行研究では明らかになっていなかった秩序増強の物理的メカニズムを単純なモデルを用いて解明することができた。また、この現象は電子格子相互作用や、電子相関といったこれまで考慮していなかった効果を考えても現れることが分かった。これにより、Ta2NiSe5など実際の物質での実現可能性をより詳しく議論することができるようになったと考えている。 後者の研究では、スピン軌道相互作用の強い半導体において、円偏光電場が及ぼす効果を時間発展計算および非平衡定常状態を記述するフロケ理論を用いて調べた。研究では、ふたつの手法による結果を比較検討することで光誘起スピン偏極機構を明らかにすることができた。特に、系が持つフェルミ面の形状と電子密度により、光で誘起される磁化の絶対値や符号が変化することを明らかにした。また、光の電場振幅や周波数によって、得られるスピン偏極がどのように変化するかを調べた。それらの結果から、いくつかの物質においてこの現象の観測可能性を議論した。
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