研究課題
X線自由電子レーザー(XFEL)Sub-10nm集光の実現と,それに伴う超高密度光子場を利用した新たな学問分野の開拓が望まれている.しかしながら,10nmレベルの集光XFELの直接計測は,光源の振動やアブレーション損傷の観点から難しく,XFELナノビーム評価法の確立が切迫した課題である.本研究ではこの問題に対して,X線の位相情報の取得に着目し,日本のXFEL施設であるSACLAにおいて高精度な波面計測手法の開発を行うものである.本年度はチェス盤状回折格子を用いた2次元波面計測法の開発に注力した.開発段階のsub-10nm集光システムを用いて行った実証では,各系統誤差量を独自手法で較正し,計測精度λ/16以下を確認した.計測結果を基にsub-10nm集光ミラーの形状修正を実施したところ,1.4λ程度あった波面誤差を0.25λまで改善することに成功した.これは集光径として半値幅8nmを達成する精度である.このことからも,開発した波面計測法が精度良く有効に機能していることが示された.また,同手法をSACLAに既存の200nm集光システムに適用することで,集光の自動最適化システムを構築した.自動最適化後の集光状態は,集光径130×150nm非点収差100μm以下を達成した.これは200nm集光システムの最小集光実績値とほぼ同値である.本最適化システムで得られた知見はSub-10nm集光にも大いに役立つと予想され,SACLAナノ集光のユーザーフレンドリー化の推進につながると示唆された.
2: おおむね順調に進展している
本研究は,XFELのsub-10nm集光実現のために高精度X線波面計測技術の確率を目指すものである.本年度はチェス盤状回折格子を用いた2次元波面計測法の開発に注力し,計測における系統誤差の理解・計算機シミュレーションによる検討・実験による実証を推し進めた.結果として,シミュレーション結果と実験結果は良い一致を示し,目標である波面計測精度λ/20に対して十分に高い精度で系統誤差較正が可能であることを確認した.現状として,中周期波面誤差の独立な計測再現性がλ/16以下,計測結果に基づく波面補正精度がλ/4以下であることを確認している.またXFELビームライン導入へ向けた下準備として,既存のSACLA200nm集光光学系に対して,開発した2次元波面計測法を適用した.結果として,波面誤差λ/20以下の優れた波面プロファイルの計測に成功し,200nm集光の自動最適化システムの構築へと展開することができた.自動最適化後の集光状態は,集光径130×150nm非点収差100μm以下を達成した.これは200nm集光システムの最小集光実績値とほぼ同値である.本最適化システムで得られた知見はSub-10nm集光にも大いに役立つと予想され,SACLAナノ集光のユーザーフレンドリー化の推進につながると示唆される.
今後の方針として,1.他の波面計測法との比較評価および系統誤差較正2.系統誤差の主要因であるX線カメラの最適化3.入射(非集光)XFELの波面計測法の開発を実施する.1および2は,本研究の核心とも言える波面計測精度の向上を突き詰めるものである.特に2に関して,現状の系統誤差はX線を可視光変換した後に画像検出器に導くレンズ光学系の歪曲に主要因があると考え,低ディストーションレンズを用いたX線カメラの新規開発に着手する.3では,光学素子へ入射するX線波面が集光状態に大きく寄与することを考慮すると,開発の必須項目であると言える.現在までの知見を役立てた開発とすると共に,これまでのセットアップや光学素子とは少し様相を変えて,できる限り可搬・容易な波面計測手法とすることを想定している.利便性の高いシステムとすることで,様々なビームライン・運転条件の非集光XFELを評価したい.
本年度当初に取り組んで開発した波面計測システムが想定よりも良い結果を示し,予定していた追加の光学素子の導入が不要となったことが主因である.ただし,低ディストーションX線大視野カメラを独自に開発する,という新たな展開が拓けたため,次年度使用額を有効に使った研究開発を行う予定である.
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Optics Express
巻: 27(13) ページ: 18318-18328
10.1364/OE.27.018318