研究課題/領域番号 |
19K23435
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原田 了 東京大学, 宇宙線研究所, 特任研究員 (80844795)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 重力崩壊型超新星爆発 / ニュートリノ / 輻射流体計算 / 一般相対論 / 核物質状態方程式 |
研究実績の概要 |
本研究は重力崩壊型超新星爆発のための一般相対論的ボルツマン輻射流体コードを開発し、そこからの重力波・ニュートリノ放射を計算することが目的である。 本研究の第一段階はコード開発であり、令和1年度はそれを進めた。一般相対論的ボルツマン輻射流体コードは流体モジュール、ボルツマンモジュール、数値相対論モジュールから構成されている。令和1年度においては、特にボルツマンモジュールと流体モジュールの一般相対論化を重点的に進めた。これは、それらが数値相対論モジュールの並列化方法に非自明な影響を与えることがわかったためである。一般相対論的流体モジュールについては、現行の流体モジュールを骨格に、扱っている保存量と数値流束を一般相対論化した。これは一通り完成し、性能を評価する段階を残すのみである。また、一般相対論的ボルツマンモジュールは、先行研究の定式化に基づき、現行のボルツマンモジュールの数値流束を修正することで達成している。この時、直感的な差分化では数値誤差が大きく、計算が不安定になることが判明した。現在ではこれを回避する特殊な差分化を施すことで、一般相対論的な曲がった時空であってもニュートリノ輸送を正しく解けるようになった。 また、令和1年度には並行して一般相対論化前のボルツマン輻射流体コードを用いた超新星爆発シミュレーションの実行・解析も進めた。本研究は一般相対論化したものが主眼だが、非一般相対論的な計算との比較によって一般相対論的効果がニュートリノ放射等に与える影響を調べることで、先行研究とのより詳細な比較が可能になるからである。こちらはいくつかの計算については解析結果を論文にまとめて投稿中であり、いくつかの計算は初期の即時対流まで計算が終わったところである。論文にまとめた研究においては、一般相対論的重力が大きな影響を与えうる物理量についても議論してあり、比較の準備は整えたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の当初の予定では、開発済みの数値相対論モジュールを大規模計算に耐えるよう並列化し、その上で現行のコードに結合することが目標であった。しかし、その結合対象である流体モジュールとボルツマンモジュールを一般相対論化する際に計画当初には想定していなかった問題が生じたため、その対処に予定より時間を割いた。特に、ボルツマンモジュールを一般相対論化するための特殊な差分化は並列化の際の変数の通信にも大きく影響を与える可能性があった。実際、令和1年度の成果により数値相対論モジュールを並列化する上で重要な知見を得ることができた。このように、研究中に判明した新たな課題に対応する必要があったため、当初計画を大きく超えて進展することはなかったが、目的に向けたステップとしては概ね順調に進展していると言える。 また、令和2年度においては一般相対論的ボルツマン輻射流体シミュレーションを行う計画であり、ここで親星や核物質状態方程式が重力波・ニュートリノ信号に与える影響を調べる予定である。この時には一般相対論的効果が与える影響も調べておくと、先行研究の非一般相対論的計算と結果を比較し、妥当性を議論する上で効果的であることに研究中に思い至った。この計算は一般相対論的コード開発と並行して行っておくことで計算機資源を効率的に運用することができるため、当初計画に追加して非一般相対論的なコードによるシミュレーションも行った。この結果は一部論文にまとめて投稿することができ、一般相対論的シミュレーションと比較するのに必要なことは調べられたため、このステップも順調に進められたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和1年度では研究中に判明した新たな課題に対応することにも時間を使ったため、令和2年度にはその続きとしてコード開発を進める。さらにまた新たな課題が判明するなどしない限り、これは令和2年度の前半を用いて進める。それが終わり次第、令和2年度後半を用いて超新星爆発の一般相対論的ボルツマン輻射流体シミュレーションを実行する。当初計画ほどの数のモデルを計算することはできない可能性があるが、その場合は特に核物質状態方程式が重力波・ニュートリノ信号に与える影響を重点的に調べる。 また、令和2年度の前半のコード開発と並行して、現在実行中の非一般相対論的なモデルの計算も終わる見込みである。この結果と令和2年度後半の計算結果を比較した議論を論文にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は研究会参加費用に研究費の多くを割く予定であったが、本研究費以外の種々の補助等により本研究費から支出する必要がなくなった。また、令和1年度には新たな問題点が発覚し、シミュレーション本体は令和2年度の後半に行うことになった。これで計算可能なモデルの数が制限される可能性が高いため、研究費から計算機利用料を支払うことによってスパコンの利用権を得て、計算モデルを増やすことで対応する計画である。その場合に備え、令和1年度の研究費は令和2年度に回すことにした。
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