研究課題/領域番号 |
19K23439
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
生出 秀行 東京工業大学, 理学院, 助教 (60846294)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 高輝度LHC / ピクセル検出器 / 長寿命粒子探索 / ヒグシーノ探索 / 重荷電粒子探索 |
研究実績の概要 |
高輝度LHCの放射線環境にて使用される次世代ピクセル検出器について,最大の焦点であったピクセル・センサーの画素サイズについては,最内層を除いては50×50 um^2のものを採用することが決定した.これにより,FEモジュールの設計は初期量産の準備が整い,わが国が担当するセンサーおよびモジュールの型式もほぼ確定した. 計画の焦点は量産時におけるアセンブリ工程下での品質担保のための検査項目の策定に移りつつある.製造の各フェーズにおける外観検査・形状測定・モジュール動作確認試験・耐熱試験の策定が進んでいる.外観検査のための設定について,各国に分散した検査を行う機関で同等の確認ができるよう,ワイヤ・ボンドの状態等を確認するために十分な光学性能と再現性が市販製品において確立できることを確認し,推奨条件の提案を行った.また検品に従事する者の作業を均一化するための支援ソフトウェアの開発を始めた.冷却環境の構築については10W程度の発熱があるモジュールを-15℃まで冷却するという条件が測定器の運転要件から決まり,低温チラーとペルチェ冷却素子を組み合わせたハードウェアのプロトタイプを作成した.試験対象の実機モジュールが未製造のため,設定温度の到達こそ未確認であるが,温度のPID制御を含めた基本的な設計は出来上がった. 飛跡性能に着目した物理解析については,「ヒグシーノ」探索においてごく低運動量飛跡を崩壊物にもつ荷電ヒグシーノが僅かに飛行したのち崩壊するシナリオに着目し,これを用いた探索解析が既存の探索の穴を埋めるものであることを示した提案を行うことができた.また,並行して長寿命の重荷電粒子探索を現行解析として電離損失の応答関数を実データから抽出して信号事象への適用するパッケージを開発した.放射線損傷における数年間の応答の時間変化も良好に較正されており,高輝度LHCにおいても適用可能なスキームである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ピクセルセンサーの画素サイズについては50×50 μm2および25×100 μm2の二種類が候補として挙がっていたが,25×100 μm2における想定よりも大きなクロストーク頻度のために所期の位置分解能に届かないことが明らかになった.ヒット・ピクセル数も増えてしまいデータ帯域を圧迫するため,50×50 μm2の設計に基本的に統一できたことは大きく,引き続く量産のための準備に主軸が移ることになった.本年度の開発を通じて,具体的な設計のなかった状態の冷却箱のプロトタイプを作り上げることができたのは大きな進捗である.また外観検査についても推奨条件の提案を日本から行うことができたのも重要である. 長寿命粒子探索においては,標準的な再構成では その対象から外れてしまうような飛跡を特殊に再構成するケースについて,従来の欠点を補う新しい交点再構成アルゴリズムの開発を進めている.理論的側面から飛行中の崩壊のシナリオを種々,検討した際に,特に「荷電ヒグシーノ」のケースについて予想外に重要な気づきを得たため,緊急性が高いと考え,これを提案論文としてまとめ上げた.この提案の拡張として,衝突点から大きく変位した交点を用いる可能性も含まれるため,引き続き交点再構成の開発を進めたい.
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今後の研究の推進方策 |
検査のための冷却箱開発については,目標設定温度を達成する一定の目処がついている一方,実機モジュールを用いた直接的な確認ができていないため,これが優先される.また実機の初期量産の前に行われるキャンペーンとして,プロトタイプ・モジュール「RD53a」を用いた小規模の模擬量産が年度内に行われる予定で,これを冷却箱および外観検査システムの運用を試験する重要な機会としたい.また,冷却箱の雰囲気管理について,フェイルセーフのためのインターロックの設置も含めた,厳密な制御を可能とするものに発展させ,完成度を高める.外観検査においても,模擬生産においてある程度数量が製造されることで,事前に想定した確認項目の蓋然性が確認できる.ただし,2019年度末よりモジュール製造のパーツを担当する各国の諸機関にCOVID-19の影響が顕著に見られているため,目下これらの進捗の随所に明確な遅れが生じているなど,不定性は非常に大きくなっていることを付記する. 物理解析については,「ヒグシーノ」探索においてごく低運動量飛跡を崩壊物にもつ荷電ヒグシーノが僅かに飛行したのち崩壊するシナリオに交点再構成を要求した際の感度の推定を進める.重荷電粒子の探索については解析の本格化が進んでおり,年度内に探索結果を公表することを目指す.並行して新しい交点再構成法について具体化を進め,実装したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
「研究活動スタート支援」は「基金」であるため,もとより年度をまたいだ柔軟な運用が可能である.生じた次年度使用額は「RD53a」を用いた実機モジュールの製造が進行中であるが,プロトタイプ模擬生産に向けた冷却箱の実機による性能検証がまだ得られておらず,これを踏まえた設計変更を見越しているためである.次年度は,より完成度を高めた冷却箱の製造と,海外諸機関との調整のための旅費を見込む.なお現在COVID-19によって渡航は全面的に制限されている状況であり,当初の計画のとおりに渡航を行うことができない可能性が長期におよぶ可能性があることを付記する.
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