研究課題/領域番号 |
19K23444
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研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
八野 哲 長崎総合科学大学, 新技術創成研究所, 研究員 (20850720)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | カイラル対象性 / クォーク ・グルーオン・プラズマ / QGP / ALICE実験 / 高エネルギー原子核衝突 |
研究実績の概要 |
LHC-Run3(2021-)高エネルギー重イオン衝突における低質量ベクトル中間子の質量分布を高分解能で測定するために、LHC- ALICE検出器の新型シリコン飛跡検出(Muon Forward Tracker: MFT検出器)の開発を行った。今年度はソフトウエア開発に注力した。また、MFT導入後のバックグランドの見積もりや既存検出器の性能評価のために、LHC-Run2(2015-2018)で取得した陽子-陽子衝突データの解析をした。 各種MFT検出器のパラメータの最適化を行うためのシミュレーションコードを作成した。正確に検出器の物質量を再現し、検出器内で生成する二次粒子バックグランドを見積もった。同時に飛跡再構成やデータ品質に関わる検出器情報データベースを設計した。 低横運動量・低質量ベクトル中間子(ρ、ω、φ)の質量分布測定に対する既存のミュー粒子飛跡検出器(MCH)とミュー粒子同定検出器(MTR)の性能評価、ハドロン吸収層の低質量ベクトル中間子の再構成に与える影響をLHC-Run2のデータを用いて行った。MFTはMCH、MTR、ハドロン吸収層と組み合わせて運用するため、これら検出器の性能評価は必要不可欠である。この解析はMCH、MTR、ハドロン吸収層が低横運動量領域のベクトル中間子質量の測定に与える影響を定量的に評価しただけでなく、低質量ベクトル中間子の運動量・ラピディティー分布を明らかにした。この解析結果はALICE実験に公式に認められ、共同研究者によって国際会議で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ALICEはLHC-Run3から新たな高速読出系のフレームワーク(online-Offline:O2)を実装する。MFT検出器のO2ソフトウェアに関する開発は最終段階にある。しかし、MFTの飛跡再構成アルゴリズムは既に完成しているが、MCHのO2ソフトウェア開発に遅れが生じており、MFTの飛跡とMCHの飛跡のマッチングに関する研究が進んでいない。高い質量分解能を得るためには高いマッチング効率が必須なため、今後の研究が重要になる。一方で、既存のデータを用いた解析は順調に進み、MCH、MTR、ハドロン吸収層の低横運動量・低質量ベクトル中間子測定に与える影響は詳細に調べることができた。また、LHCエネルギーにおけるベクトル中間子の生成量も測定できたため、シミュレーションを用いた各種パラメータの最適化の準備は万全である。 2019年度末に予定していたコミッショニングへの参加は、COVID-19の影響により中止した。この影響は最短で2020年秋まで続くため、計画の再調整を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
シミュレーションを用いて低い横運動量ミュー粒子のMFT+MCH飛跡マッチングアルゴリズムを最適化する。具体的には、飛跡の幾何学的相関、運動量相関を用いる。また、軽ハドロン(πやK中間子)崩壊で生成した二次ミュー粒子同定アルゴリズムの最適化も行う。 飛跡再構成やデータ品質管理に関わる検出器情報データベースの構築も行う。運用の設計は済んでおり、CERNの専門家と協力し組み込み作業を進める。 MFT検出器をLHC-P2(ALICE検出器群)に組み込み、各種配線後に各動作テストを行う。宇宙線ミュー粒子を用いて検出器の歪み(alignment)を正確に把握 する。その後、シミュレーション内にノイズレベルや歪みなどを再現し、飛跡再構成アルゴ リズムやカットパラメータの最終確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末に予定していた出張がcovid-19のためキャンセルしたため。 2020年度秋に検出器インストールのために予定している長期CERN出張の旅費にあてる。
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