本研究の目的はブラックホール降着円盤におけるイオンと電子のエネルギー配分を求めることである.これによりEvent Horizon Telescopeによるブラックホールシャドーの観測に対してより精度の高い解釈を行えるようにすることができると期待できる. まず本年度は,前年度得たジャイロ運動論を用いた運動論的乱流シミュレーションの結果を論文発表し,学会・ワークショップにて成果を発信した. さらに,ジャイロ運動論シミュレーションの結果から,大スケールにおける非圧縮なAlfven的揺動と圧縮的な揺動の強度比が,イオンと電子のエネルギー分配に重要となることが分かったため,電磁流体力学(MHD)を用いた磁気回転不安定乱流のシミュレーションを行った. 前年度行ったMHDシミュレーションでは,Alfven的揺動と圧縮的な揺動の強度比はほぼ1対1であると思われたが,モデル方程式を見直し修正を行ったところ1対2~2.5であることが分かった.これを用いてより降着円盤中のイオンと電子の加熱比の公式をより正確化した.このように大スケールの電磁流体力学乱流と小スケールにおけるジャイロ運動論的乱流を結びつけた結果は天体物理学分野では初の試みである.さらにこのシミュレーションでは,支配方程式を簡約化することで,いままでのMHDシミュレーションでは到達できなかった微小スケールの乱流特性も明らかにすることが出来た.現在,電磁流体力学乱流の結果を論文にまとめている最中である.
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