メキシコ湾流と黒潮は北アメリカ大陸によって隔てられているため,数年以内に海洋プロセスによって熱を交換することはできない。本課題では,衛星観測と全球気候モデル(GCM)のデータ分析に基づいて,メキシコ湾流と黒潮の海面水温が10年単位で同期していることを示した。この同期は、大気ジェット気流の南北移動に紐づけられている。 黒潮とメキシコ湾流の続流域において海面水温の領域平均を取った時系列を計算したところ,両海流の同期が非常に顕著に検出された。本結果は,観測データのほか,GFDL-CM4C192やMIROC6subhiresなどの全球気候モデルのシミュレーションでも再現されている。スペクトル解析によって,10年規模振動のパワーにピークがあることを示した。また,ラグ相関解析によって,黒潮とメキシコ湾流の間にラグがないことを示した。この同期現象は, Gallego and Cessi (2001)により理論的に予測されたメキシコ湾流と境界流の相互作用によって記述される現象と少なくとも一部整合することがわかった。また,MIROC6を用いた大気大循環モデル実験では,黒潮とメキシコ湾流の海面水温が高くなると,ジェット気流が北偏する結果が示唆され,これは中緯度大気海洋結合モードであるとする仮説をサポートする結果である。 また,卓越する物理現象の空間スケールの違いを考慮する主成分分析の方法として,示強変動抽出(Intensive Variability Extraction; IVE)という手法を確立した。本手法では,空間的な自己相関が小さい領域に重みをつけて主成分分析を行うことで,より情報量を持っている(すなわち,細かなスケールが重要と考えられる)領域を強調する。
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