研究課題/領域番号 |
19K23466
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
梅原 章仁 気象庁気象研究所, 台風・災害気象研究部, 研究官 (10845944)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 二重偏波レーダー / 降水粒子判別 / 発雷 / 突風 / 竜巻飛散物 / 降水過程 |
研究実績の概要 |
本研究は、初年度に二重偏波レーダーデータを用いた新たな降水粒子判別手法を開発し、以降、開発した手法を事例適用することで、雷・突風の前兆となる微物理構造の特徴を明らかにし、それらの前兆把握への応用可能性を示すことを目的としている。初年度は、目的に沿って①新たな降水粒子判別手法の開発・評価環境の整備、を中心に、②降水粒子種別と発雷密度の関係性の研究、③マイクロバースト(以下MB)発生前後における降水粒子種別の時空間分布特性の調査、を実施した。また、降水粒子判別手法の拡張及び台風に伴う被害(竜巻、大雨)監視への応用を視野に、④竜巻飛散物の検出手法の開発、⑤降水プロセス判別手法の検討、をそれぞれ実施した。 ①では、ワークステーションや大容量データ保存装置等を購入、データを集約し、解析・評価環境を構築した。 ②では、複数事例を対象に気象庁雷検知システムによる発雷密度と、降水粒子種別の関係を調査し、あられ、氷晶粒子が特に発雷密度との相関が高いことを示した。 ③では、MBの発生前に、雹の増加に先行して“強い上昇流域に特徴的な降水粒子”が増えていたこと、雹の割合が“強い上昇流域に特徴的な降水粒子”の割合を越えた約5分後に、MBが発生していたことを予備的に示した。 ④では、2019年台風第19号に伴い千葉県市原市に発生した竜巻による飛散物の検出を行い、降水粒子判別手法に組み込む有効性を示した。 ⑤では、2019年台風第19号の大雨について二重偏波レーダーを用いて解析を行い、観測史上最大の日降水量を記録した箱根雨量計の観測した雨を含め、“暖かい雨のプロセス”が支配的であること(積乱雲による深い対流性の雨とは異なる、即ち雨には多様性があること)を示し、開発する降水粒子判別手法の“雨”の種別を降り方により細分化することで、防災情報として更に有効利用できる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、初年度に、開発した降水粒子判別手法に関する論文を投稿する計画であったが、今年度の研究(研究実績の④⑤)により、“竜巻による飛散物の判別機能”、“雨の降り方の判別機能”を、それぞれ追加することで、防災情報として更に有効利用できる可能性を見出したことから、将来的な機能追加を見越し、アルゴリズムの設計を一部見直し、また、品質管理についても反射強度、反射因子差の減衰補正処理の高度化を実施することとした。この見直し・高度化により、ベイズ推定における尤度関数の再作成が必要となったため、論文投稿が計画より遅れている。以上の理由により区分の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
当所想定よりも判別機能を拡張し、防災情報としての価値をより向上させるため、二年目は初年度に引き続き、“竜巻による飛散物の判別機能”、“雨の降り方の判別機能”の機能追加、並びに反射強度、反射因子差の減衰補正処理の高度化に伴う、尤度関数の再作成を進め、当該降水粒子判別手法の判別精度及び機能を向上させる。その後、降水粒子判別結果を用いた発雷の前兆となる微物理構造の統計的特徴の解明、降水粒子判別結果を用いた突風を伴う/伴わない積乱雲の時空間的な微物理構造の差異の解明に向けた解析を進める。 なお、“竜巻による飛散物の判別機能”、“雨の降り方の判別機能”の追加を見越したアルゴリズムの設計の見直しや、反射強度、反射因子差の減衰補正処理の高度化に伴い、作業の追加や手戻りが生じたことから、当該研究の一年延長を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた論文投稿が遅れ、英文校閲料・投稿料が未使用となったため。当該助成金は翌年度に繰越し、当初予定の論文投稿に係る経費に充当する。
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