本研究は,二重偏波レーダーデータを用いた新たな降水粒子判別手法を開発し,その手法を雷・突風事例に適用することで,前兆となる微物理構造の特徴を明らかにし,前兆把握への応用可能性を探ることを目的としている.2023年度においては、複数回にわたり上空の降水粒子を撮像する特殊ゾンデとの比較観測を試みたものの、特殊ゾンデの不具合により、十分な観測データが得られなかった。このため、これまでの成果の内、特に三次元放電路標定観測装置の解析から得られた電荷分布構造と開発した降水粒子判別手法の判別結果の比較に関する研究成果を進めるとともに、その一部を論文としてまとめることに注力した。この比較による成果は典型的な①マルチセル型の雷雲事例と、マイクロバーストをもたらした②スーパーセル型の雷雲事例の二事例で行い、それぞれまとめた。 ①マルチセル型事例では、下層正電荷に対応するレーダービンが、濡れた降水粒子の二重偏波特性を有していることを明らかにした。その上で、従来定説とされてきた霰と氷晶の衝突による電荷分離機構以外の、より液水に関係する電荷分離機構により生成された可能性を議論し、論文にまとめ国際誌に投稿した。 ②スーパーセル型事例では、複数台の二重偏波レーダーから三次元風速場を推定し、電荷構造と降水粒子分布に加え、鉛直流も含めた対応関係を調査した。これにより、一つのスーパーセル内部において対流域(主に強い上昇流域)と層状性域(弱い下降流域)で、下層正電荷と対応する降水粒子に違いがあることを明らかにした。さらに、同スーパーセルを複数台のフェーズドアレイレーダーが観測に成功していたことから、これらを用いた時空間解像度の非常に高い三次元風速場を推定するプログラムを開発した。これら得られた結果を論文投稿に向け取りまとめた。
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