電子機器や光学機器の更なる高性能化のために,ガラス材料に微細精密加工を施す技術が求められている.ガラスの微細加工のための有効なツールとしてフェムト秒レーザが注目されているものの,加工後に多量のクラックが発生し,精密加工が阻害される.従来,熱的な処理によりクラックの除去が試みられているが,熱変性やプロセスの煩雑さが課題として存在している.そこで本研究では,クラック形成の抜本的要因となる応力波伝搬を制御するための技術基盤を構築することを目指した. レーザ照射時,応力波は材料内部を高速で伝搬する.この応力波を制御するためには,応力波の作る応力分布を正確に知ることが必要となる.従来,シミュレーションによる応力分布の推測が試みられてきたが,正確な情報を得るためにはシミュレーションだけでは不十分である.そこで,本研究では,高速で変動する圧力分布の実測とシミュレーションを複合することにより,応力分布の実験的推測を試みた. 圧力分布は材料内部の密度変化として観測されることから,マッハツェンダー干渉計を構築した.さらに,マッハツェンダー干渉計と時間分解(Pump-Probe)撮影法を組み合わせることで,超高速で変化する圧力分布を実測した.この実験結果をシミュレーションに反映させることで,シミュレーションのキャリブレーションが実現し,正確な応力分布の推定が実現した. その結果,レーザ照射後のナノ秒未満の時間スケールで,材料の実用強度を上回る引張応力が分布することが明らかとなった.本結果から,加工時に伝搬する応力波の引張成分の出現する時間スケールとその大きさが定量的に示された.そして,明らかとなった応力の時間プロファイルを積極的に活用することによる精密加工技術開発の指針が示された.
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