研究課題/領域番号 |
19K23488
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大橋 ひろ乃 大阪大学, 基礎工学研究科, 特任研究員 (60853562)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 4Dプリンティング / 筋細胞 / ソフトロボット |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,「人工的な造形物に動的要素の埋込み可能な4Dプリンティング技術の確立」である.既存のロボットは固有の環境において高い性能を発揮するが,未知の環境においては途端にそのシステムが崩壊する.この問題を解決するにあたり,「ロボットに生物の環境適応的な要素を付与」に挑戦する.本研究の4Dプリンティングとは,3Dプリンティングに細胞の動的要素を新たな軸として加えたものである.この技術により,ロボットの構成要素自体に動的作用を持たせることが可能となり,ロボットの状況適応性を向上することが期待される.本研究ではまずアクチュエータ・センサとして機能することが報告されている,筋芽細胞の3Dプリンティングの技術確立に着手する.筋芽細胞は筋細胞のモトであり,分化を誘導すること筋管細胞,筋線維と変化し筋肉として機能する.1年目の2019年度では,細胞の足場となるタンパク質(足場タンパク)・細胞の密度の検討を行った.予備実験の結果から,足場タンパクとしてゼラチンよりもコラーゲンを用いたほうが,分化が進行することが分かっていた.このため,足場タンパクとしてコラーゲンベースのゲルを中心に,細胞の密度を変更して印刷実験(細胞入りゲルの印刷実験)を行った.そして,その細胞入りゲルを培養・分化誘導した後に電気刺激実験を行い,その機能を調べた.その結果,細胞入りゲルで電気刺激より収縮が見られ,高い細胞密度ほど収縮しやすいことがわかった.つまり,3Dプリンティングした筋細胞でも筋肉として機能を有することが示された.この研究結果は,国内学会で発表済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,筋芽細胞を用いた3Dプリンティング技術の確立を目指す. 筋細胞を用いることは単に物理的な柔軟性だけでなく環境に対して順応性を持つことが期待できる.この手法が確立できれば,生物のように環境適応的な要素持つロボットの開発が実現可能である. 2019年度は,筋細胞の3Dプリンティングに最適な細胞の足場となるゲル(足場タンパク),細胞密度の探索実験を行った.筋芽細胞は筋細胞のもととなる細胞で、分化誘導により筋細胞として変化する.CELLINK社製バイオ3Dプリンタ (BIOX) を用いて筋芽細胞入りゲルを印刷し,分化誘導後に電気刺激実験を行った.電気刺激により細胞入りゲルの収縮が誘起できれば,3Dプリンティングで印刷した細胞が筋細胞として機能することが確認できる.この実験において,印刷した細胞入りゲルが電気刺激に伴い収縮することが観察された.2019年度の2月からBIOXをアップデートのためCELLINK本社に発送した.この間は,来年度に向けた予備実験を行なった.詳細を以降に示す.マイクロピペッターを用いて,手動で細胞入りゲルを打出す実験(手打ち実験)を行った.手打ち実験では,光依存的に陽イオンを細胞内に取り込むチャネルロドプシンタンパクを導入した筋芽細胞 (ChR2-C2C12) を使用した.この実験から,光/電気刺激によりChR2-C2C12入りゲルがわずかに収縮することが観察された. 今年度の研究において,3Dプリンティングした筋芽細胞が筋細胞としての機能を有することが分かった.さらに,来年度に使用予定のChR2-C2C12で手打ちではあるが筋細胞として機能することが確認できた.印刷した筋芽細胞が筋細胞として機能する点,来年度に向けた準備が進められていることから,進捗状況を概ね順調に進んでいると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は筋芽細胞を用いた3Dプリンティング技術の確立に向けて,引き続き①ゲルの選定を行うとともに,②筋芽細胞と線維芽細胞の共培養,③チャネルロドプシンタンパクを導入した筋芽細胞の印刷に着手する.詳細は順を追って説明する.①ゲルの選定:コラーゲンゲルベースのゲル (ColMA, CELLINK社) や筋芽細胞の培養で既に実績のあるMatrigel (Corning) を試用する.②筋芽細胞と線維芽細胞の共培養:線維芽細胞は,損傷組織の修復に寄与し,足場タンパクであるコラーゲンなどを生成する.このことから,筋芽細胞と線維芽細胞を混合して印刷することにより,印刷した細胞入りゲルの機能向上が期待できる.i) 筋芽細胞と線維芽細胞を一緒にゲルに混ぜて印刷する方法,ii)個々にゲルと混合し,層ごとに印刷ゲルを切り替えて印刷する方法を試す.そして,それぞれの印刷物の機能を解析する.③チャネルロドプシンタンパクを導入した筋芽細胞 (ChR2-C2C12) の印刷:チャネルロドプシンタンパクは光依存的に陽イオンを細胞内に取り込む.このため,ChR2-C2C12は光刺激により分化が促進することが報告されている.この細胞を使用することで,非侵襲的な刺激入力が可能で,かつ部位特異的に光照射することで同一ゲル内において分化の程度を調整することができる.また,2019年度の実験から,細胞密度がある程度高い状態で印刷し,培養・分化誘導を行わなければ,細胞入りゲルが機能しないことが分かった.そこで,2020年度は細胞密度を振ることはせず,高密度の一定条件下で実験を進めることにする.
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