本研究の目的は,「人工的な造形物に動的要素の埋込み可能な4Dプリンティング技術の確立」であった.ロボットに生物の有する柔軟性や環境適応性を付与するために,筋細胞からなるロボットの開発が行われている.しかしその作製には,一部の技術者の知識や卓越した経験を要するため実用化には至っていない.そこで作製の一部を3Dプリンタに委ねることにより,筋細胞ロボットを作製を簡略化できないかと考えた.4Dプリンティングは,3Dプリンタに細胞の動的要素を加えた印刷技術と定義した.2019年度は3Dプリンタで印刷した筋細胞入りコラーゲンベースのゲル(筋芽細胞+足場タンパク質)が電気刺激により収縮することが確認できたが,その収縮はわずかでありロボットに使用するには不十分であった.そこで2020年度は,収縮が大きい筋肉を作製するために最適なゲルの組成・細胞密度の検討を行った.その結果,何通りかのゲルの組み合わせで昨年度より電気刺激による筋収縮が確認できた.現在は,その筋細胞入りゲル(筋アクチュエータ)を利用したロボットの開発に着手している. ロボットに環境適応性を付与する新たな試みとして,昆虫の触角を利用した匂い源探索システムを開発した.このシステムは匂いセンサに昆虫の触角を利用しており,触角が検知した匂い情報(触角電位)を印刷電極により取得する.本来触角電位の取得には特殊な機器や実験者の経験が必要であるが,この方法では異なる形態の触角であっても単に電極に載せるだけで計測可能である.また触角電位は数mVの電気信号であることからノイズの影響を受けやすいため,ARXモデルによりノイズと生体信号の分離を試みた.その結果,異なる形態の触角であっても匂いセンサとして使うことができることを実験的に明らかとした.この研究成果は,Sensors and Materialsに報告済みである.
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