研究課題/領域番号 |
19K23491
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
喜多 由拓 九州大学, 工学研究院, 助教 (40840616)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 液滴 / マランゴニ対流 / 流れ可視化 / 蒸発 / 赤外線サーモグラフィ / 接触角 |
研究実績の概要 |
医療分析や創薬研究への応用が期待される次世代マイクロ流体技術として,液滴を用いたデジタル流体デバイスが注目されている.液滴は試料の混合・反応・検出を行うマイクロリアクタとしての役割を担うが,肝心の液滴内部攪拌・温度制御技術はまだ確立されていない.そこで本研究では,マイクロヒータを用いた局所加熱による液滴内部対流の制御に必要な熱流動現象の学術的基盤を築くことを目指す.赤外線サーモグラフィおよび粒子画像流速測定により,温度場・速度場情報を同時取得することで,与えられた加熱量・温度が液滴内部対流の流速や温度上昇に及ぼす影響を明らかにする.また,液滴形状(接触角や体積)が熱対流の安定性に及ぼす影響を調査する.最終的には加熱条件・液滴形状等のパラメータから計算される無次元数(レイリー数やマランゴニ数)で,対流強度や熱伝達特性を整理し,熱流動特性の支配パラメータを特定する. 2019年度は赤外線サーモグラフィによる観察にとどまったが,種々の表面コーティング処理を行い,体積一定の液滴に対し接触角を70-150度まで変化させ,蒸発及び対流様相への影響を調査した: (1) 接触角の影響:接触角が低い(約70度)と明確な対流渦は見られなかったが,90度以上の液滴では複数の渦が発生し,加熱を続けると振動を始めるような挙動が見られた. (2) 液滴振動現象の発見:接触角が最大(150度)のケースでは液滴自身が振動するような新しい不安定性現象もみられた. (3) 蒸発速度への影響:非加熱時は接触が小さいほど蒸発速度が速くなるのに対し,局所加熱時はそれが逆転した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は予備実験として,赤外線サーモグラフィのみの観察にとどまったが,接触角による対流様相への影響が定性的に明らかになってきており,今後の発展性を確信させる成果が得られた.また,粒子画像流速測定についても準備を進めており,光学系の検討・組み立てが順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
予備実験で得られた定性的な結果に対して理論的な考察を進めるとともに,現在進行中である粒子画像流速測定装置の構築を進める.具体的には以下の項目について調査する. (1) 液滴の接触角および体積が内部対流の強度(流速・渦度)に及ぼす影響. (2) 接触角が150度付近の時に見られる液滴の振動現象. (3) 蒸発速度に関する考察.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は予備実験として現有の赤外線カメラのみを用いた実験を進めてきた.一方で,物品費のほとんどを占める粒子画像流速測定用の光学系については設計と部品選定に時間がかかっており,本年度中に終えることができなかった.また,新型コロナウイルスの拡大に伴う国内外の学会発表の一部が中止になったことも次年度使用額が生じた理由である.次年度はまず,測定系の構築を進めるべく光学部品やレーザ光源,高速度カメラの整備を進める.また,9月にリスボンで開催予定の欧州熱工学会議(EUROTHERM)およびロンドンで開催予定のThe 7th International Conference on Micro and Nano Flows (MNF2020)にて研究成果を発表する予定であり,助成金を旅費・参加料に充てる.
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