マイクロ流路で形成される微小液滴内部では,均一な濃度・温度場が形成されることから,高品位なナノ粒子合成への応用が期待される.本研究ではマイクロ流路内微小液滴をリアルタイムにモニタリングする熱センサを開発し,これを液滴内反応制御へ適用することを目標として取り組んだ. 初年度は,(1)薄膜測温抵抗体による熱センサの試作,(2)微小液滴形成用送液装置の構築,(3)合成制御対象の検討を行った. 最終年度は,研究の進度や微細加工施設の積極的な利用が難しい情勢などを踏まえ,前年度試作品やバルクでの試作・実験から各要素の実験的検証を進めた.成果を項目毎に示すと,(1)熱センサの動作検証:試作した直径0.7 mmの薄膜センサ上へ水・エタノールを滴下し,周期加熱に対する温度応答の違いから,それらを1秒以内に識別できることを実証した.(2)微小液滴形成の確認:水と界面活性剤入り油相流体をマイクロ流路内へ流量を調節して流入・合流させ,水を内包したpL・nLオーダーの液滴を形成し,搬送できることを確認した.(3)インライン合成分析の実験的検討:直径1mmのチューブ内で塩化金酸・クエン酸Na水溶液を混合加熱して金ナノ粒子を合成し,分光計測から粒径を分析するインライン合成分析装置を構築した.合成温度による吸収スペクトル変化が観察され,温度制御による粒径調節の可能性が示唆された.一方でTEM観察とも照らし合わせたところ,吸収スペクトルと粒径を単純には関係付けられず,粒径制御に向けて混合直後から逐次分光計測する必要があるという知見を得た. 以上のように,微小液滴を用いた合成制御チップの実現に向けて,各要素の土台を築いた.引き続き研究を進めて熱センサ,合成分析操作,フィードバックを微小液滴へ適用して集積化することで,微小液滴内での熱センサによる高品位な合成が実現できると期待される.
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