研究課題/領域番号 |
19K23502
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山本 知生 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (20849898)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | ソフトアクチュエータ / ソフトロボット / 空気圧アクチュエータ / 移動機構 / 配管点検 |
研究実績の概要 |
本研究は、細径配管内などの狭隘な空間において高い運動性能を実現するためのロボット構成法を提示することを目的としたものである。本年度は、高速動作・大発生力・大伸縮を特徴とした新しい駆動原理に基づく細径アクチュエータ機構、および高速な推進運動生成の研究を行った。具体的な研究成果概要は以下の通りである。 ① 膨張と伸長運動の生成を圧力変化で切り替え可能な大伸縮細径ソフトアクチュエータを開発:シリコンゴム等の柔軟素材を活用した、細径かつ大伸縮の新型ソフトアクチュエータを開発した。このアクチュエータは流体・運動制御機能を内包しているという点において新しく、前後方向への伸縮運動と半径方向への膨張運動を印加空気の圧力変化を利用して切り替えることにより、多彩な運動を少数のエアチューブで生成することを可能とした。 ② 2系統の空気供給のみで高速な前進・後退が可能な運動様式を開発:前述のアクチュエータを利用して、尺取り虫のように細径配管内を走行する運動様式を開発した。この運動様式の特徴は供給空気の圧力差を利用することで、2系統の低圧空気供給のみで高速な前進・後退運動を実現している点にある。従来よりも空気供給チューブの本数や重量を軽減することが可能であり、配管内における推進速度や牽引力を向上させることが可能である。 ③ 細径配管内での高速推進を達成:配管を用いた推進実験を実施し、内径25mmの水平配管内で45.5mm/sでの推進を実現した。これは同サイズのロボットと比較して世界最速の速度である。また、25mmの垂直配管内における23.7mm/sでの上昇、54.4mm/sでの下降も実現した。アクチュエータの構造や運動パターンの最適化により、さらなる推進速度の高速化が見込まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究では、当初の想定を超えた新たなアクチュエータ構造を実現することができ、研究の進展は当初計画以上に進展していると考える。以下に具体的な理由を述べる。 当初の研究計画では、膨張と伸長の機能のみを持ったアクチュエータを複数個協調させることにより、高速推進を実現するというアプローチを想定していた。しかし、今年度の研究成果では、膨張と伸長の機能に加え、それらを印加空気の圧力変化を用いてコントロールするという一種の運動制御機能をも内包したアクチュエータを実現することができた。これにより、アクチュエータ単独でも複雑な運動を生成することが可能になった。また、提案した推進パターンについても、現時点において45.5mm/sでの推進を実現しており、さらに高速化も見込めるため、本研究の速度目標である100mm/sに向けて、研究は順調に進展していると判断できる。 さらに、当初の予定ではアクチュエータ機構、複数アクチュエータの協調、および自励的流体制御による運動生成を個別に研究開発することにより高速な推進を実現することを想定していた。しかし、今年度に開発したアクチュエータは単独でも複数アクチュエータの協調や流体制御の要素を既に内包していることから、結果的に次年度以降の研究内容を一部先取りした形となっている。また、それらの要素を一体として研究開発に取り組むことで、次年度以降の研究開発も加速することも期待できる。この点からも本年度は良い成果が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究課題の最終年度であり、より高性能かつ実用的なロボットの推進機構の実現を目指して研究を進める。具体的な研究項目は以下を想定している。 ① 運動性能向上および検査機器の搭載容易化を目的としたアクチュエータ機構の研究:アクチュエータの動作速度向上には供給可能な流量を高める必要がある。また、曲管など複雑な狭隘空間の走行にはそれに適したロボット形状が求められる。さらに、点検作業に必要なカメラやセンサ等の検査機器を搭載するためには、内部を中空化する必要がある。そこで、アクチュエータの構造をさらに多層化することで、これらの課題を解決する方策を研究する。 ② 複数アクチュエータの同時駆動による長距離走行性の向上:狭く複雑な環境を長距離にわたって走行するためには、エアチューブなどのケーブル類と周辺環境との間に生じる摩擦を少なくし、引っ掛かりを減らす必要がある。エアチューブの表面改質による摩擦低減にも限界があるため、何らかの方法で能動的にエアチューブと環境との接触を低減させることが長距離化に向けて有効と考えられる。そこで、複数アクチュエータの同時駆動についても研究を行い、推進距離の長距離化を目指す。 ③ 流体制御方式の研究:ロボットの推進速度向上のためには、印加する空気の制御方法についても研究する必要がある。当初の研究計画においては、自励的流体制御をロボットに搭載することによって速度向上を図る計画であった。しかし、今年度の研究進捗を鑑み、今後はより広い見地から制御方法について研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は所属研究機関から配賦される運営費交付金によって、本研究で使用する研究機器や材料等を調達することができた。また、所属研究機関所有の工作機械や設備を活用することで、予算の使用額が抑えられた。これらの理由により予算に未使用額が生じたため、次年度に使用することとした。 次年度は繰り越し分の予算を活用して研究を加速する予定である。具体的には、機構の製作・検討のための機械部品,電子部品等の部材や流体制御機器類の購入、および加工装置の購入に使用することを検討している。また、次年度は本年度の研究成果を含めて論文誌や国内外の学会への発表を積極的に行うことを予定しているため、それらの論文投稿費や旅費としても使用する予定である。
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