研究課題/領域番号 |
19K23515
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金子 光顕 京都大学, 工学研究科, 助教 (60842896)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 炭化ケイ素 / 電界効果トランジスタ / 論理回路 / ハイブリッド |
研究実績の概要 |
高温・高圧・高放射線環境下などの厳環境で動作する集積回路は石油・ガスの掘削作業、惑星探索、エンジン燃焼室の燃費向上など様々な応用先が存在する。既存のシリコン集積回路では材料物性の限界により動作が不可能であるため、ワイドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)による集積回路の作製が期待されているが、Si集積回路の構成デバイスであるCMOSをSiCで作製すると、閾値電圧が大きく変動するなど実用化に大きな課題がある。 本研究では、集積回路の構成デバイスとして接合型トランジスタ(JFET)を使用することでCMOSが抱える信頼性の問題を回避し、厳環境動作可能なSiC集積回路の開発を目指している。さらに、JFET構造の全てをイオン注入で作製するという特徴を活かし、横型パワーMOSFETを兼ね備えるハイブリッド集積回路開発へと展開する。 本年度は、JFET論理回路の理論特性予測とJFETの作製と並行してハイブリッド化に向けた横型パワーMOSFETの試作を行った。JFET論理回路の出力特性を予測するコンパクトモデルを構築し、JFET構造による論理回路出力の予測を可能にした。JFETを作製する際のイオン注入条件を変更せずに横型パワーMOSFETの素子構造へ適用できるよう、マスクパターンを設計した。実際に作製したサンプルにて、JFETの動作およびパワーMOSFETの素子動作を確認できた。パワーMOSFETのオン特性を評価すると、耐圧維持領域の長さに関わらずほぼ同じオン抵抗を示すことがわかった。このことから、パワーMOSFETのオン抵抗はMOSチャネル領域の抵抗が支配的であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、JFET論理回路の理論特性の予測を行った。また、JFETと横型パワーMOSFETの同時作製を行い、その両方の動作が確認できた。研究は概ね当初の計画通り順調に進展している。 nチャネルJFETとpチャネルJFET両方を使用したJFET論理回路の作製報告はこれまでほとんど無く、その論理ゲート特性の予測をコンパクトモデルで初めて可能にした。デバイス設計の際、本研究で得られた設計パラメータは非常に有用である。また、論理閾値電圧の温度変化の予測も可能となった点も特筆すべき点である。室温 - 600℃など、広い温度範囲で使用する際に必須の結果と言える。 本研究ではデバイス構造全てをイオン注入で作製することでJFETの作製およびパワーMOSFETの作製に成功した。JFET論理回路とパワーデバイスを同時作製した報告はこれまでなく、回路の簡素化・高速化に向けて大きな進展が見込める。本研究ではnチャネルMOSFETの作製を行ったが、pチャネルMOSFETの作製も同時に行えると考えられ、JFET論理回路とMOS論理回路の同時作製が可能であることを示唆する点も特筆できる。JFET論理回路とMOS論理回路を同時作製することで、厳環境における信頼性の評価を同一サンプル上で行うことも可能となり、それぞれの論理回路の厳環境動作の比較が可能になると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
コンパクトモデルの確立によりJFET論理回路の理論動作予測が可能となった。しかしながら、コンパクトモデルはデバイス構造を簡素化して式を導出しており、仮定が多いモデルに留まっている。現実のデバイス動作の予測には二次元的なポテンシャルの分布を考慮したモデルが必要となる。最終年度は、チャネル領域のポテンシャル分布を考慮したモデルに拡張することで、より正確なデバイス動作予測を可能とするモデルの確立を目指す。 本研究ではデバイス構造全てをイオン注入で作製することでJFETの作製およびパワーMOSFETの作製に成功したが、パワーMOSFETの特性評価はオン特性のみにとどまっている。耐圧維持領域を変化させたパワーMOSFETの逆方向特性を評価することで、耐圧および絶縁破壊電界の導出を行い、これまで報告がある横方向パワーMOSFETの特性と比較し、JFETと同時作製したパワーMOSFETにおいても、良好な特性を有しているか検討を行う。オン特性についても、チャネル領域が抵抗を支配していることから、界面準位を劇的に低減することが可能なNOガス中の熱処理を行い、パワーMOSFETの性能向上を計る。 作製したJFET論理回路、パワーMOSFETについて、実際に厳環境における動作実証を目指す。厳環境の例として、高温環境におけるデバイス動作を目指す。ステージ温度を600℃程度まで上げることができるプローバを用いて、高温環境における閾値電圧やパワーMOSFETの耐圧評価などを行うことで、その有用性と今後の課題を解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で提案しているデバイス構造作製には4回のイオン注入が必要である。1回のイオン注入には40万円程度かかることもあり、非常にコストがかかる実験である。イオン注入に充てる予定であった予算について、デバイスプロセスの進行の都合上、別助成金により実施したことで、次年度使用額が生じた。使用計画について、本来予定していたイオン注入等の実験費用に充てる予定である。
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