研究課題/領域番号 |
19K23516
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 拓海 大阪大学, 工学研究科, 助教 (40844204)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 大規模MIMO / 大規模マルチユーザ検出 / 繰り返し推定 / 確率伝搬法 / 深層展開 / 深層学習 |
研究実績の概要 |
大規模な受信アンテナ素子を備えた基地局が、多数の無線デバイスとの通信を同時にサポートする大規模MIMOは、情報を空間的に多重化することで飛躍的な無線資源の利用効率の向上を可能とする、次世代無線通信システムの中核技術である。その実現には、基地局で多次元情報を一括で処理するための低処理量な信号処理が必要不可欠である。本研究課題は、上り回線の信号分離手法に着目し、モデル駆動型アプローチとデータ駆動型アプローチを統合してアルゴリズム設計を行うことで、実用化可能な低処理量かつ高精度なマルチユーザ検出の開発を目的とする。 初年度である令和元年度では、理学的な理想条件下で設計されたモデル駆動型のアルゴリズムが、それとは異なる現実的な無線通信環境においてどのように振る舞うかを解析し、その際に生じる特性劣化の要因を解明した。また、その解析結果に基づいてアルゴリズムを再構築・学習可能パラメータを導入し、深層学習技術を用いたデータ駆動型チューニングを施すことで、理想条件から乖離した問題設定であっても、アルゴリズムの検出性能を大幅に改善できることを明らかにした。 特筆すべき成果としては、確率伝搬法 (BP: Belief Propagation) に基づく大規模マルチユーザ検出での進展がある。これまで動作させることが非常に困難とされてきたフェージング空間相関環境下においても、提案した学習可能BPを深層展開と呼ばれるデータ駆動型チューニング手法により最適化することで、高精度な多次元・高多値信号検出を実現できるケースが存在することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の研究計画はおおむね順調に進展している。当初の計画通り、確率伝搬法の理論的な解析と、現実のマルチユーザMIMO検出で生じる問題点の解明、その結果に基づく学習可能BP検出器の設計と、深層展開を利用したデータ駆動型の最適化など、予定していた計画を実施できている。また、得られた結果も非常に良好であり、想定された以上の成果をあげている。その中で、新たな課題やさらなる発展の方向性も見出されており、次年度で予定していたデータ駆動型チューニングに基づく準理論的な解析とともに、引き続き検討を進めていく予定である。 これらの初期検討については発表済みであるが、研究成果の大部分は次年度に発表予定である。3件の国内発表を予定しており、国際会議へも投稿済みである。さらに今後、論文誌への投稿を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の令和2年度の研究計画に従い、データ駆動型チューニングに基づく準理論的な解析を実施する。研究実績の概要で述べた通り、本検討課題の理論的な枠組みやアルゴリズムの数学的定式化、および基礎検討での有効性の確認は完了している。理学的な理想条件下で設計されたモデル駆動型アルゴリズムと、現実の工学問題の間にある隔たりをデータ駆動型アプローチで埋め合わせることができる可能性を示すことができた。 次年度では、さらに学習されたBP検出器の構造を解析することで、新たな理論的知見や解析手法の開発が目標となる。理想条件から乖離した条件下でもアルゴリズムの収束特性をある程度解析することができれば、工学的な問題への適用、およびその実用化に際しての大きな進展となる。 また、令和元年度の検討からのさらなる発展として、送信機側での通信路符号化を前提とした復号器による誤り訂正も含めたBP検出器の統合設計や、量子化されたルックアップテーブルに基づく離散BP検出器の設計についても注力する方針である。
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