Society 5.0 が目指す未来社会では、サイバー空間とフィジカル空間を高度に接続する無線空間が重要な役割を担う。なかでも、複数の端末が大規模なアンテナ素子を備えた基地局と同時に空間多重接続を行う大規模マルチユーザMIMOは、IoT技術の発展を下支えする物理層中核技術に位置づけられる。本研究課題では、その実現に際して必要不可欠な受信機での信号分離 (検出) 手法の高度化を目的に、モデル駆動型アプローチ (確率伝搬法) とデータ駆動型アプローチ (機械学習) を統合したアルゴリズム開発を行った。 令和元年度では、確率伝搬法 (BP: Belief Propagation) に基づく信号検出器に予め内部パラメータを埋め込み、これを深層学習によって最適化することで、より広い無線通信路モデルに対して高い検出性能を達成できることを確認した。 これを受けて、令和2年度は学習された検出器の内部構造の変化に着目し、学習されたパラメータの挙動と併せて解析することで、BP検出器の検出性能を向上できるアルゴリズム (グラフ) 構造を見出すことに成功した。さらに特筆すべき成果として、学習の結果得られたアルゴリズム構造は定性的に解釈可能であり、いまだ発展途上な学習結果の解釈という観点からも、大きな知見を得ることができた。また、実用化へ向けた重要な発展として、多様な無線通信システム構成に対してより柔軟にBP検出器を最適化することを目的に、MCS (Modulation and coding scheme) を含むシステムパラメータに応じた損失関数の設計にも着手した。その結果、想定される多くのシステム構成において、同程度の処理量を有する従来法と比較して、検出性能を大幅に改善可能であることを計算機シミュレーションにより明らかにした。
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