新しい動作原理に基づくシリコンスピン電界効果トランジスタ(SiスピンMOSFET)は,将来の電子機器の更なる小型化・低消費電力化への貢献が期待できる極めて重要な新型半導体デバイスである.SiスピンMOSFETの実現には,Siへのスピン注入技術が最重要課題であり,実用レベルのスピン信号強度の観測が必須である.本研究では,これまでの知見を基に,ホイスラー合金/MgOトンネルバリア界面に着目し,界面構造を制御することでスピン信号強度を増大させることを目的とする. 昨年度は強磁性体電極としてホイスラー合金Co2MnSnの結晶成長を試み,室温成膜においてはA2構造を有していることを明らかにしたが,さらなる結晶規則度の向上に向け加熱成膜の必要性を検討した.本年度は,スパッタリング装置内での加熱成膜を行うため,基板固定用部品を改良し,加熱の制御方法を調整することで加熱温度の最適化を行った.またスピン信号を評価するため,微細加工素子の作製に必要なSiの加工条件についても最適化した.しかし,コロナ禍による部品調達や研究活動の遅延ならびに福島県沖地震によるスパッタリング装置の故障などが重なり,Co2MnSnの加熱成膜には至らず,また微細加工素子の作製に必要な種々の条件出しを全て行うことはできなかった.今後は,今回得られた加熱条件を利用したCo2MnSnの加熱成膜による結晶規則度の確認や,微細加工素子の作製技術を確立し,Co2MnSnのSiスピンMOSFET用強磁性体電極としての可能性を見出し,スピン信号の増大を目指していく.
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