研究課題/領域番号 |
19K23535
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮崎 祐輔 京都大学, 工学研究科, 助教 (10847320)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 遠心模型実験 / 補強材の引抜き試験 / 降下床装置 / 壁面土圧 / 補強材周りの土圧 / 帯鋼補強土壁 / 静的載荷試験 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,補強材の引抜き変位量に応じた補強材の引抜き抵抗力と壁面に作用する土圧の関係を実験的に解明することである.そこで,本研究は,補強土壁の力学を理解するために,補強土壁の一要素に着目した引抜き実験を行う.また,この引抜き試験においては,計測の困難な水平土圧ではなく,反力を確保しやすい鉛直土圧の問題に置き換えるため,降下床装置を導入する.さらに,実地盤の応力状態を再現可能な遠心力載荷装置を用いて,遠心場における補強材の引抜き試験を行う. 今年度は,補強材・壁面・地盤で構成される補強土壁の一要素をモデル化した,遠心場における引抜き試験装置を開発した.土圧の計測には,ひずみ式荷重計ではなく,既存のたわみ式土圧計を用いた.これは,ひずみ式荷重計の精緻な機構が原因で,動作確認のための時間を十分確保できなかったため,遠心場における引抜き試験装置の開発を優先したことが理由である. 実験の結果,補強材を考慮しない鉛直土圧の計算値と比較すると,いずれの遠心加速度においても,鉛直土圧の計測値は計算値を大きく下回った.この理由について考察する.模型地盤は遠心加速度の増加に伴い,徐々に圧縮される.沈下する地盤には,補強材との境界で生じる摩擦が鉛直上向きに働くため全体的に壁面に作用する土圧が低減したと考えられる.また圧縮時,補強材からの反力によりその近傍では模型地盤がより強く圧縮される.そのため補強材に近いほど,鉛直土圧が大きくなったと考えられる. また,補強材の引抜き変位に応じた鉛直土圧の計測値から,補強材を3.0 mm引抜くまでは,壁面に作用する鉛直土圧の変化率は小さいが,5.0 mmに到達すると,明瞭な鉛直土圧の増大が見られた.地盤内部においては,引抜き変位量に応じて,鉛直土圧のバランスが変化していることが予想される.今後は地盤内部のひずみ分布を正確にとらえることで現象の説明を試みる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ひずみ式土圧計の開発を今年度予定していたが,計測精度に課題があり,計画通りに進行しなかった.そのため,遠心場における引抜き試験装置の開発を優先することに計画を変更して,今年度に開発完了した.また,既存のたわみ式土圧計を用いて,遠心場における引抜き試験を開始し,補強材の影響と考えられる特徴的な鉛直土圧分布を確認した.そのため,総合的に進捗状況を考慮して,概ね計画通りに研究が進行していると考えられる. 次年度は,今年度十分に検証できなかったひずみ式土圧計の開発を再検討する.ひずみ式土圧計は,せん断方向の土圧を計測可能で,応力の大きさと方向を分離出来るため,たわみ式土圧計よりさらに詳細な土圧の指標を観測できることに優位性がある. また,壁面材の寸法については,実験に用いた地盤内の標点の挙動を概観すると,境界条件の影響を上手く除去できていない可能性がある.そのため,壁面材の寸法を変更して実験を再度行う.その際,現在計測できていない補強材張力を計測項目に追加して,再実験を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
現在,一番大きな懸念点として,COVID-19感染拡大の影響により,京都大学防災研究所有の遠心力載荷実験室において遠心模型実験が実施できないため,当初計画を達成できない可能性がある.外部利用の可能性がさらに低いことは,昨今の情勢から明白である.また,本学の指針として,感染拡大を防ぐため,2020年5月1日現在,新しい実験の開始を禁止している.本申請は,本学の対応指針を鑑みながら,実験の再開の目途を検討している. 但し,実験の実施が困難であっても,既に実施した実験データの詳細分析や,ひずみ式荷重計の断面剛性に関する理論的な再検討を進めることが出来る.実験の再開が禁じられている現状においても,検討可能な項目を整理し,申請通りの研究が行えるよう着実に準備を進める. 実験の再開が認められた場合,感染拡大について最大限の配慮を行い,各種実験を実施する.ひずみ式荷重計のキャリブレーション,遠心場における引抜き試験などは,申請者一人で実施検証するなど,安全に配慮しながら,第三者への感染を防ぐことに十分注意しながら,検討を進める予定である.本申請は,実験を主体とした申請であるため,感染状況を鑑みながら,可能な範囲で研究に取り組む所存である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画から変更して,遠心場における補強材引抜き試験装置の開発を進めたため,ひずみ式荷重計開発に必要な部材費が余ることとなった.次年度に,ひずみ式荷重計の検証を再開するため,翌年度分の費用として請求した.
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