本研究の目的は,補強材の引抜き変位量に応じた補強材の引抜き抵抗力と壁面に作用する土圧の関係を実験的に解明することである.そこで,本研究は,補強土壁の一要素に着目し,計測の困難な水平土圧ではなく,反力を確保しやすい鉛直土圧の問題に置き換えて検討した.本研究では,その手法として降下床装置を用いた.さらに,実地盤の応力状態を再現可能な遠心力載荷装置を用いて,遠心場における補強材の引抜き試験を行う.今年度は,境界条件の影響を緩和するため,前年度より幅の狭い壁面材を用いて,遠心場における引抜き試験を実施した. 実験の結果,I. 初期変位状態,II. 荷重変位関係におけるピーク状態,III. ピーク後,IV. 10%変位時,の四つの段階で,鉛直土圧分布を分析したところ,補強材を敷設したケースでは,ステージI. ~ III.まで,補強材周辺の鉛直土圧の増減は,50 G到達時の初期値と比較して,補強材近傍では一定であり,それより離れた位置では減少する傾向を示した.ステージIV.では,補強材近傍は増加に転じた.補強材を敷設しないケースでは,補強材を敷設したケースと異なり,50 G到達時の初期値と比較して,ステージI. ~ IV.で同様の増減傾向を示し,その傾向が変化することはなかった. これは,補強材が敷設された場合,地盤内のゆるみ領域の進展を抑制し,あるゆるみ領域までは,補強材とその近傍地盤が一体的に挙動し,降下床に一定の土圧を伝達しつづけたためと考えられる.この現象が生じる壁面の鉛直変位量の閾値が存在するが,地盤のゆるみ領域は降下床の幅と補強材の寸法とも相関することが推察される.そのため,これを確認するためには,遠心場において引抜き過程における地盤内のゆるみ領域,偏差ひずみの大きさ,鉛直土圧分布の推移を,降下床の幅および補強材の長さの関係からより詳細に調べる必要がある.
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