本研究は,過去における送電施設の地震被害により,広域に亘る都市生活に甚大な被害が生じたとの多数の報告を踏まえ,送電鉄塔の耐震性評価,及び耐震性向上対策を検討する事を目的とした.検討対象は,我が国で一般的に採用され,基幹線に位置する送電鉄塔を選定した.本鉄塔への減衰付与の観点から高減衰化を図り,鉄塔の地震に対する安全性確保,及び耐震性向上について,解析的,且つ実験的に検討を進めた.本研究では,制震装置として振り子式の同調質量ダンパー(TMD: Tuned Mass Damper,以下,TMDと称す)を鉄塔へ適用する事で,鉄塔の耐震性向上を検討した. 2019年度は,鉄塔の耐震性向上の為に必要なダンパーの減衰性能に関して,解析的検討を進めてきた.その結果,荷重条件や鉄塔基部の境界条件等の相違により,鉄塔の地震時挙動が異なり,必要となるTMDの減衰性能に差異がある事を確認した.又,諸条件に対して最適なTMDの設置条件や性能条件を探索した.更に,TMDの実基への設置を考慮に入れた実験的検討として,ステンレス材を用いた塔状構造物の自由振動実験を通して,実験モデルの構築を進めた. 2020年度は,主としてダンパーの設置条件や性能条件に着目し,対象鉄塔の耐震性向上に有効な諸条件の解析的探索を継続した.その結果,より制震効果を発揮する設置位置や,質量比,材料非線形等の性能条件が存在する事,一定範囲内の同調比において制震効果を発揮する事を解析的に確認した. 2021年度は,塔状の模型構造物を作製し,検討対象構造物である鉄塔の振動特性を再現できる模型を構築した.更に,模型構造物へ振り子式のダンパーを設置し,塔状構造物の耐震性向上対策について,実験的に検討した.その結果,簡易的な振り子式のダンパーを模型へ適用する事で,模型の応答低減効果が確認され,制震装置の有効性を実験的に確認した.
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