研究課題/領域番号 |
19K23571
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
久保田 雄太 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (80851279)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 酸化セリウム膜 / ガスアシスト液中成膜プロセス / 抵抗変化特性 |
研究実績の概要 |
液中成膜酸化セリウム膜の抵抗変化型メモリへの応用と膜構造制御による低電圧動作下に向けて、本年度は主に、ガスアシスト液中成膜プロセスによって再現性良く酸化セリウム膜が作製されたNi, Ti基板を成膜基板として、基板の配向性や温度・雰囲気といった膜の乾燥条件が抵抗変化特性に与える影響を調査した。また、膜構造制御に向けた成膜条件の検討として成膜温度や成膜時間といったプロセスパラメータの改善にも取り組んだ。 上記液中成膜プロセスにより作製されたNi基板上酸化セリウム膜は、従来の気相法製酸化セリウム膜で必要であった”Forming Step”と呼ばれる抵抗変化特性評価前にスイッチング電圧の10倍程度の電圧を1度だけでかけて酸素空孔由来の導電経路を形成させるプロセスが不要であったが、Ti基板上酸化セリウム膜もForming Stepなしで高抵抗状態から低抵抗状態への抵抗スイッチングを示した。しかし、そのスイッチング電圧は約0.8 Vであり、Ni基板上酸化セリウム膜の約0.5 Vよりも大きな値であった。また、正と負の電圧印加で高抵抗状態から低抵抗状態、低抵抗状態から高抵抗状態へ変化する典型的なバイポーラ型ではなく、同一印加方向で電圧値によって抵抗変化を起こすユニポーラ型に近い抵抗変化挙動であった。サイクル特性の向上、スイッチングの低電圧下に向けて乾燥条件を検討したところ、80℃大気雰囲気下乾燥により、Ti基板上酸化セリウム膜もバイポーラ型が示す抵抗変化挙動を示した。この際スイッチング電圧が大きくなったため、乾燥雰囲気を真空に変更したが、従来の60℃大気雰囲気下乾燥の試料よりも大きなバンドギャップを有しており、酸素空孔が乾燥中に減少したと考えられた。従って今後さらに乾燥条件振って詳細に分析する必要があるが、試料の酸素空孔存在率が抵抗変化特性に影響を及ぼすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度実施した試料乾燥条件の検討により、試料UV-Vis測定によるバンドギャップ評価から酸素空孔存在率を相対的に評価して、酸素空孔存在率増加・減少の変化と抵抗変化特性の変化とを関連させて議論できる可能性が見出せたことは本研究にとって大きな成果である。また、Ti基板上酸化セリウム膜の乾燥前後により、電圧印加による抵抗変化挙動がユニポーラ型に近い挙動からバイポーラ型に変化したことから、試料の酸素空孔存在率が抵抗スイッチング電圧のみでなく、抵抗変化挙動そのものに影響を与えている可能性が示唆されたことも興味深い点である。しかしながら、現在までの成膜基板の選定や乾燥条件の検討では、サイクル特性の向上やスイッチング電圧の低下に関して特筆すべき成果が出ておらず、本年度達成されなかった膜構造制御の実現が望まれる。この点で当初の計画と比較して、現在までの進捗状況はやや遅れているとした。 膜構造制御に向けて、本年度は主に成膜温度や成膜時間の検討を中心に行った。当初、高温に耐えうるテフロン容器を中心とした独自の成膜装置を設計する予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う社会活動の不透明さから、既製品での代用を行った。代用品を用いて80℃での成膜を行ったところ、構造制御のために添加する界面活性剤の量にもよるが、本年度検討した範囲では膜構造に変化を及ぼさないか、析出結晶への吸着による分散性向上から膜化せずに沈殿物が得られるという結果になった。分散性向上の要因としては、界面活性剤分子の粒子への吸着による立体障害とゼータ電位変化による静電反発が考えられる。従って、次年度は分子鎖の短い添加剤を検討するとともに、得られた沈殿物のゼータ電位測定を行うことで、成膜pHにおいて静電反発が起こらない添加剤を見出す。
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今後の研究の推進方策 |
ガスアシスト液中成膜プロセスにより膜構成粒子の構造が制御された酸化セリウム膜を作製するために、今後は分子鎖の短い有機物、無機物の添加や、溶媒の変更を検討する。これは、分子鎖の長い有機物系添加剤では析出結晶に吸着した際に立体障害やゼータ電位変化による静電反発によって分散性が向上して、膜化せずに沈殿物が生成するためである。具体的には、粒子状酸化セリウムの形態制御に使用されているクエン酸やリン酸三ナトリウム、エチレングリコール溶媒等の使用を検討する。ガスアシスト液中成膜プロセスで酸化亜鉛膜の作製を検討した際、溶媒を水からエチレングリコールに変更することで酸化亜鉛膜の作製に成功した。またこの時、酸化亜鉛を溶液中で合成した際にはc軸成長しやすくロッド形状となるのが一般的であるが、エチレングリコールの析出粒子への吸着により密な膜が形成された。従って、エチレングリコール等の溶媒は膜化を阻害せずに膜構成粒子の形態制御を行うことが可能であると推測される。 また、現在の成膜プロセスでは原料溶液保持容器とアンモニアガス生成溶液保持容器を1つの密閉容器に入れて成膜を行うため、プロセス温度が原料溶液中での膜生成反応とアンモニアガス生成溶液中でのヘキサメチレンテトラミンの加水分解に伴うアンモニアガス生成速度の双方に同時に影響を与えていた。この2種のパラメータを分離してより成膜条件の検討に幅をもたせるため、原料溶液とアンモニアガス生成溶液に対して個別に温度を加えられるようプロセスの改良も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた本研究独自の液中成膜装置の設計、成果発表のための学会発表が新型コロナウイルス感染症拡大により延期されたため次年度使用額が生じた。また、試料酸素空孔存在率をより実際に近い状態で分析するために、真空雰囲気下で行う分析手法から大気雰囲気下で行うUV-Vis測定によるバンドギャップ評価に変更したため、分析装置利用料、分析依頼費が想定よりもかからなかったことも次年度使用額が生じた要因である。生じた次年度使用額は、本年度その必要性が示唆された膜構造制御に向けた添加剤検討のための試薬購入費、成膜装置の改良費、本年度の成果と合わせた次年度成果発表の学会参加費・旅費、論文投稿料に使用する予定である。
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