研究実績の概要 |
1. ASTM F90に規格されている生体用Co-20Cr-15W-10Ni合金をベースとして、Mn, Siを添加したCo-20Cr-15W-10Ni-xMn-ySi合金(x =4, 6, y = 0, 0.5, mass%)を作製した。鋳造まま材(as-cast材)および熱間鍛造材(as-forged材)に対し、組織観察および晶・析出物相分析を行うことで、Co-Cr-W-Ni合金におけるMn, Si添加が溶融・鍛造プロセス中に形成される晶・析出物相に与える影響を明らかにした。過去の研究から、Co-20Cr-15W-10Ni合金において熱間鍛造後に確認される主な析出物は、M23X6型、η相(M6X-M12X型, M: 金属元素、X: C and/or N)であったが、MnおよびSiを添加することで、M23X6型析出物の形成が抑制された一方で、η相の形成が促進された。さらに、Si添加量の増加とともに析出物量も増加していたことから、Co-Cr-W-Ni合金において、Siは析出物形成を促進すると考えられる。 2. As-forged材に対して溶体化処理条件の検討を行った。1473 Kにて7.2 ks熱処理を施した試料においては析出物が残留したが、1573 Kにて7.2 ks熱処理を施すことで、すべての合金組成において析出物の完全な溶体化が確認された(ST材)。ST材に対して冷間圧延を行い、冷間圧延材(CR材)を作製した。Co-20Cr-15W-10Ni-4Mn-0Si材の限界圧延率は、約60%であった。Co-20Cr-15W-10Ni合金の限界圧延率が約58%であったことから、少なくともMn添加による塑性変形能の低下は確認されず、既存の規格合金と同等の加工性を有していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.Co-20Cr-15W-10Ni合金(mass%)にMnおよびSiを添加することで、Co-20Cr-15W-10Ni-xMn-ySi(x = 4, 6, y = 0, 0.5, mass%)の計4種類の合金を溶製した(as-cast材)。 2. As-cast材に対して1473 Kにて熱間鍛造を行った(as-forged材)。As-cast材およびas-forged材の両方からη相が確認された。As-forged材においては、Si添加による析出物量の増加が確認された。このことから、Co-Cr-W-Ni合金におけるSi添加は析出物形成を促進すると考えられる。 3. As-forged材に対して晶・析出物の溶体化を試みた。1573 Kにて7.2 ks熱処理を施した試料においては、Mn, Si添加量にかかわらず、晶・析出物が完全に溶体化していた(ST材)。ST材の結晶粒径は、合金組成にかかわらず300 μm程度まで粗大化していた。 4. ST材に対して冷間加工を施した。現在、Co-20Cr-15W-10Ni-4Mn-0Si(mass%)のみ圧延率50%の条件にて冷間圧延を施した試料の作製が完了している。Co-20Cr-15W-10Ni合金(mass%)の限界圧延率が約58%であったのに対し、Co-20Cr-15W-10Ni-4Mn-0Si(mass%)の限界圧延率が約60%であったことから、Mn添加後も規格合金と同等の塑性変形能を有していると考えられる。 5. 規格合金であるCo-20Cr-15W-10Ni合金(mass%)に対して、冷間圧延および再結晶化熱処理を施すことで、圧延率30, 50%の再結晶化熱処理条件の検討を行った。平均結晶粒径が20 μm程度の試料を作製することができ、今後研究を遂行する際に参考となるデータを獲得することができた。
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