研究課題/領域番号 |
19K23586
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
岩國 加奈 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 助教 (80837047)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 光コム / 中赤外分子分光 |
研究実績の概要 |
本研究では、構造が複雑な分子のスペクトルの煩雑性を低減し、高感度にスペクトルを観察するために、非対称コマ分子の特性を利用して、中赤外光コムを光源とした新奇フーリエ分光手法を提案・実証することを目的とする。分子は振動回転の自由度のためエネルギー準位構造が複雑で、観察されるスペクトルが煩雑になる。この煩雑性を低減するには、エネルギーが低い振動状態を選択的に分光する手法が考えられる。これは中赤外領域で行われるが、市販されている中赤外用光検出器は可視や近赤外のものに比べダイナミックレンジが狭く、感度が低いことが中赤外分光実験を行う上で技術的な問題になる。 近年 、中赤外領域で差周波発生あるいは光パラメトリック発振などの波長変換や、量子カスケードレーザーを利用した3-10μm帯の中赤外光コム光源の開発が盛んになってきている。光コムを分光光源とするデュアルコム分光法は広帯域かつ高分解能なスペクトルが得られる手法として基礎科学から産業応用まで幅広い分野で注目されているが、デュアルコム分光を中赤外領域で行う場合、光検出器の感度で測定感度が制限されると考えられる。そこで本研究では、中赤外デュアルコム分光でも高感度な測定ができる手法を提案し、実験的に実証することを目指す。今年度は主に中赤外光コム発生の種光となる近赤外光コムを開発した。中赤外光コムの制御性やノイズ特性は種光である近赤外光コムの性能に依存するので、研究の初段階で高性能な近赤外光コムを開発することは重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で光源として用いる光コムシステムを本研究用に新たに開発した。エルビウムを増幅媒質とし、波長1.5μm帯で発振するファイバーコムである。レーザー共振器の出力を4分岐し、そのうち3つのポートを繰り返し周波数frepの検出、キャリア・エンベロープ・オフセット周波数(fceo)の検出、波長変換にそれぞれ用いる。fceoはf-2f干渉計で検出し、fceoとfrepをGPSにリンクしたRb原子時計を基準にしたマイクロ波基準信号に自作のPI制御回路で安定化した。この際、in-loop制御信号のアラン偏差を測定し、位相同期されていることと今後分光実験を行うのに十分長い時間制御が保持することを確認した。また、波長変換用のポートの出力はシングルモードファイバー分散補償した後、高非線形ファイバーに入射させた。そのスペクトルが2μm付近まで広帯域化されていることを光スペクトラムアナライザーで確認した。波長変換用の非線形結晶を選定したが、中赤外用受光器が未納入のため、その発生は確認できなかった。 分光実験に用いるガラスセルとそれを真空引きして気体分子を封入するための真空ステーションを構築した。ガラスセルはマルチパスセルで実効的な吸収長が長くとれる。また、真空ステーションは主にステンレスチューブを用いて自作し、今後必要に応じて機能を増築できるようになっている。真空度は10-5Torr台に達し、分光実験を行うのに十分な真空度が得られた。 自作する装置が多かったため1年目は予定より進捗がやや遅れている。測定装置が揃ってきたことに加え自作によってノウハウが蓄積されたので、2年目の成果につなげ行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
一つ目の開発要素は、受光器納入後に行う中赤外光発生である。波長変換効率やパワーの安定性、スペクトルを評価し、必要に応じて非線形結晶の再選定を行う。中赤外光発生には差周波発生法を用いるが、ポンプ光パルスとシグナル光パルスが同時に結晶に入射しなければ高効率な波長変換が実現できない。また、これらのパルスの光路が温度などの環境変動で揺らぐと、中赤外光のパワーが不安定になる。そのため、ポンプ光とシグナル光のどちらかの光路に遅延ステージを挿入し、さらに中赤外光パワーが一定になるように遅延ステージを制御する必要があると考えられる。このための光学系と制御システムも構築する。 2つ目の開発要素は、分光用マイクロ波の用意である。マイクロ波の指向性を向上させるためアンテナを用いるが、先行研究を参照しながら設計と作製を行う。 3つ目の開発要素は、データ取得と解析プログラムの構築である。基本的には申請者が以前開発したデュアルコムシステムと同じで、2台の光コムのfrepの差を測定し、これに合わせて干渉信号を取得し、平均する。平均した干渉信号をフーリエ変換してスペクトルを得る。本研究では低予算化と今後の研究の発展性を考慮してFPGAを導入するなどデジタル化する。
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