中赤外領域は分子の指紋吸収線と呼ばれる吸収強度の強い遷移が多数存在し、質量の大きな分子であっても精密分光が可能である。しかし、一般的な中赤外用の受光器はダイナミックレンジが狭いため検出感度 が低いという課題がある。そのため、広帯域スペクトルを高分解能かつ短時間で観察できるデュアルコム分光計を中赤外領域に拡張するには技術的な工夫が必要となる。そこで本研究では、分子のエネルギー準位構造に着目し、受光器のダイナミックをフルに活用した分光計の開発を目指した。 当初の計画では、非線形偏波回転によってモード同期を実現した2台のファイバーコムでデュアルコム分光計を構築する予定であった。しかし、一連の研究の中で非線形偏波回転の光コムの場合、温度変動によりオフセット信号のS/Nや線幅の変動が大きく、現在の実験室環境では長時間測定に適さないことが判明した。そこで、モード同期機構を非線形ループミラーに変更し、また、環境変動に対し堅牢な偏波保持ファイバーで構成された共振器を開発した。さらに、従来のデュアルコム分光計は繰り返し周波数(frep)が異なる2台の光コムを得るために2台の光共振器を用いるが、1台の共振器で2つの光コムを発生させる構成を考案した。光コムを構成から見直して再構築したため、当初の研究計画よりやや遅れているが、今後の研究の発展性を考慮すると、より堅牢で信頼性の高い光源が開発できたことは意義深い。今後はデュアルコム分光計を完成させ、提案した新規手法を実証する。 光源開発と平行して分子分光実験を行い、開発した光コムの性能を評価した。波1.52μm帯に吸収をもつN2O分子をRb原子時計に安定化した光コムを基準にして測定し、遷移周波数を1 MHz以下の測定不確かさで決定した。これにより、開発した光コムは高い測定精度で周波数計測できることを実証した。
|