研究課題/領域番号 |
19K23588
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山野井 一人 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (20847777)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
キーワード | スピン流 / スピン渦度結合 / 反強磁性体 / スピントロニクス / 表面弾性波 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近年、注目を集めている巨視的な回転運動と電子スピンの結合であるスピン渦度結合を反強磁性体に適用することで、反強磁性体を用いた非熱的スピン流生成を実現することである。 本研究プロジェクトの初年度である当該年度は、結晶性の高い反強磁性Dy 薄膜を基板上に成膜することを目標として、以下の実験を実施した。 1. 反強磁性薄膜の結晶性と成膜レートや熱処理の有無など、成膜条件との相関関係を詳細に調べるために、薄膜用X線回折(XRD) 装置を利用した結晶特性評価を実施した。その結果、結晶性の高い反強磁性Dy 薄膜を実現するには、高い平坦性を有しているTa 下地層と成膜時の基板温度を上昇させた成膜手法が重要であることが分かった。 2. [1] で実現した結晶性の高い反強磁性Dy 薄膜のネール温度などの物性値を調べるために、磁気特性測定(MPMS) 装置を用いた磁気特性の温度依存性の実験から評価したところ、Dy 薄膜で得られたネール温度は178 K 近傍と、バルク形状のネール温度 (188 K)と比較的、一致した結果が得られた。一方で、Ta 下地層を用いなかったDy 薄膜の場合は反強磁性転移が観測できなかったため、Dy 薄膜の反強磁性特性を実現するためには、上述した高い結晶性を有する薄膜形状を作製することが重要であることを明らかとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反強磁性薄膜の成膜時の最適化により、高い結晶性を維持した反強磁性体の薄膜化を実現した。その結果、作製した反強磁性体は薄膜形状にも関わらず、バルク形状と同程度のネール温度を得ることに成功した。 上述のことから、スピン渦度結合を用いた反強磁性体のスピン流生成技術の開発は着実に進めており、概ね順調に進んでいると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまでに確立した高品質反強磁性薄膜の成膜手法を駆使することで、表面弾性波デバイス上に反強磁性体と強磁性体からなる2 層膜を作製し、所属研究室で確立されているスピン渦度結合によるスピン流強度の評価手法から、反強磁性体による非熱的スピン流生成の評価実験を実施する。 更に、上述の手法により得られたスピン流強度の温度依存性を評価することで、スピン渦度結合によるスピン流生成効率が最大となる温度を調べ、反強磁性体を用いたスピン渦度結合の物理現象の詳細なメカニズムを明らかとする。 また次年度が最終年度となるため、これまでに得られた成果を論文にまとめるとともに、研究成果の国内外での発表をより積極的に行う。
|