光と物質の相互作用をナノメートルで観測することは、長きにわたって注目されてきた研究対象である。特に、反転対称面を持たない構造を表すキラリティを持つナノ構造体は、入射する円偏光の方向に対して異なる光学応答を示すことが知られている。現れる光学応答として静磁場も考えられるが、これまでにナノ構造体のようなメゾスコピックな対象に対して、そういった相互作用(静磁場)を観測された例はない。そのため、そういったキラルなナノ構造体の光と磁気のナノスケールでの関係は、未解明なところが多い。本研究では、磁性探針を用いた原子間力顕微鏡を応用して、円偏光を照射することで生じるナノスケールでの磁場の観測を実現する円偏光磁気力顕微鏡の開発を試みた。そこで、はじめにナノスケールでの光誘起の現象を原子間力顕微鏡で観測するための測定手法である、ヘテロダインFM法の導入に成功した。この方法は、光誘起の現象を観測する際に生じる探針と試料の熱膨張の効果を磁場の信号から分離する方法である。さらに、ヘテロダインFM法の導入と、光誘起の現象の高い検出感度での測定に必要な周波数変調方式の原子間力顕微鏡法の導入に成功した。この方法は、力検出器の共振周波数の変化を測定することで、探針-試料間距離の制御を行う方法である。これらの方法を用いて、探針と試料(金ナノ構造体)の双極子間の相互作用を測定することによる光誘起の現象の観測に成功した。これによって、精度高く光誘起の現象が観測できることが明らかになった。
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